これはホセが地獄に収監される直前、アクアが6歳の頃のことだった。
いきなり天界に突き落とされた(上げられた?)アクアが目覚めたところは、天界の“夕焼けの雲海”とある施設。
「おはよう、アクアちゃん。」
「…ん…」
ゆっくり目を開けると、柔らかな白みがかった金色の緩く巻いた髪が、小さな顔を縁取っているのが分かった。
肌は白く健康的で、頰は仄かにピンク色を帯びている。
年齢は二十歳過ぎか、大人っぽい。
分かりやすい天使の図。
唯一、右側に刻まれた刺青と焼印が彼の異常性を物語っている。
「僕はバタフライ。チョウって呼んでね。覚えやすいでしょ?これがあるから。」
彼は刺青をなぞった、ニヒルな笑みはおよそ天使のものとは言いがたい。
「此処は…」
「ああ説明が遅れたね。此処は天界の外国人街、みたいなとこさ。」
街ではないけどね、チョウは言って微笑んだ。
「天界では他民族の受け入れが進んでる、此処は天使になるための処理を待ってる奴らと、なった奴のいる場所。」
歓迎するよ、お姫様。
にっこり笑って、チョウは言った。
「此処は結構大規模な施設でね、最上階は12階、一階と二階除く10階に居住スペースがある。各部屋に結構大きいテラスがあって、二人または一人部屋。屋上庭園もあるし、運動場もあるし…すごく良いところだよ。」
言いながらチョウはいくつかの扉が左右に並んだ部屋で、扉の横のボタンに触れた。
「此処はエレベーターホール。エレベーターって知ってる?」
「いいえ…」
「人間界でメジャーな移動手段なんだって。この扉の外に筒があって、その中を扉がついた箱が上下するんだ。それに乗って上や下に行くんだよ。」
「…魔法陣では、ダメなんですか?」
「此処は天界だからね、せっかく良い景色でしょ?エレベーターは乗ってる間に外が見える。」
言っている間にチャイムが鳴って、扉の一つがゆっくり開いて行く。
そこにはすぐに行き止まりがあって、なるほど箱かとアクアは納得した。
「そういえばアクアちゃん。君最上階の角部屋、お隣帰ってきたから挨拶行きなよ?」
最上階に着くと、チョウがそう言った。
「?」
「あれ?聞いてないの?」
「…えと、突然ポーンと放り込まれたので…私天使にされるんですか?」
「あれあれ、君何にも知らない感じ?酷いことすんなあの子…まあいいや教えてあげる。」
君は此処に留学生って形で滞在することになってる。
だから天使にはならないと思うよ、君の意思にもよるけど。
いたければ一生いられるし、出て行っても構わない。
「それから、君就職する気ある?あの子には勧めるなって言われてるんだけど意思だけ確かめときたいからさ。」
「就職?」
「うん。どうする?」
「…えと…可能ならお願いしたいです。」
「ああホント?よかったよかった。さてと、ついたね君の部屋。」
ついた部屋のドアは品のいい木目調で、ドアの覗き穴はレンズがはまっていた。
「魔界の研究員の子が改装の事業費を出してくれてね、アイデアも彼が。天界の中では一番ここが先進的だよ。」
ノブに触れると、右にドアがスライドする。
チョウはにっこりして、アクアに言った。
「ひと通り部屋の中見て、要るものや困ったことがあったら一階に連絡してね。もう遅いから寝ておきなよ。」
朝起きたら洗濯物そこの箱に入れといてね、ご飯は下だから9:00までに降りてきて。
「おやすみ、良い夢を。」
チョウはそう言って踵を返し、いなくなった。


