「お父さん…お母さん…?」
「ああ。俺が餓鬼の頃に契約した…お前の両親を生き返らせてやる。」
「え、ちょっと待って下さい、訳が分からないです!まず、なんですかその契約って!それとなんで今ですか!」
アクアは叫んだが、ホセは微笑んだだけだった。
「まず、何故今かというとだ。簡単に言って時は満ちたって奴だな…ふふ、向こうから連絡があった。準備は出来た、と。」
ホセは優しく言った。
「それからその契約についてだが…まあお前は難しいことは考えなくていいし知らなくていい。お前は実質何一つ失う事なく幸せを手に入れられる。」
大切なのはそれだけだ。
ホセは言って、ベルトから一本のナイフを取り出す。
それはまるで真珠のような濁った輝きを放ちつつ、剣の刃先は名刀のような鋭さを誇っていた。
「綺麗だろう?」
「…はい…」
「俺は来る日も来る日も祈ってた…聖水を浴びせた白いユリの花に、お前の幸せをずっと…或る日、その願いは唐突に聞き入れられた。」
___この短剣に、最大の裏切りを。
「条件は三つ。お前が俺が兄であることを知ること、俺が一定の苦しみを味わうこと、お前が俺を殺すこと。」
「!」
「俺は周到に準備して来た、考えてみろアクア。お前には信頼できる仲間がいる、居場所もある、俺が死んだら莫大な遺産と報奨金が手に入る。吸血鬼を退治した名誉も手に入る、両親も…きっと兄弟もできるだろう。」
恩なんか感じなくたっていい、アクア。
お前が持つはずだった、俺が奪った全てをお前に返すだけだから。
「アクア、親の仇を討て。」
俺のせいで奪われた幸せを、取り戻すだけだ。
幸せそうにホセは言った。
真珠の色の短剣を、無理矢理アクアに握らせて。
「お兄ちゃ、やだ、いや、此処から出して!」
「いいんだよ…アクア。お前はもう十分過ぎるほど苦しんだ、もう」
楽になれ。
アクアは恐怖に目を見開いた、力でホセに敵う訳がない。
「い、いやお願い…」
「大丈夫、お前がやるのは殺しじゃない…退治だ。」
無理矢理押し付けられた短剣を必死で落とそうとするアクアに、笑顔でホセは囁いた。
優しいのに容赦なく、丁寧なのに強引に。
ホセは確実にその切っ先を心臓に向ける。
「お兄ちゃんっ!やめて、やめて下さい!いや、嫌なんです!!」
「おいアクア、危ない…」
必死に捩ったおかげで、倒れた剣先がホセの肩を抉る。
「いっつ…」
僅かに呻いたホセを慌てて押しのけて、アクアは入口に走る。
鍵を手にとってなんとか鍵穴に差し込んだが、そこで追いつかれ抱きつかれるように後ろに引っ張られ、ホセの上に倒れこむ。
「アクア、あんまり動くなよ…すぐ済むから。」
「いや、いやぁ!!」
必死で身をよじりながら、アクアは叫ぶ。
ホセはそんなアクアを抱きしめて、優しく囁いた。
「絶対幸せにしてやるから。」


