「かーった!」
ドヤァ、とアクアは胸を張った。
「ふふふこれで私の三勝零敗!」
「その前の12敗と一勝挟んで前の二敗をないことにしたらな。」
アクアは単純なので、ババを引こうとするとビクつくし、ただでさえ結構なメンタリストのウィングにしてみればカードゲームは大抵強いのだ。
さっきからババ抜き、ポーカー、スピード、大富豪、殺し屋キラー、蒼い海、神経衰弱とありとあらゆるゲームをやり尽くしたのだが、アクアが勝てたのは神経衰弱だけだった。
「むー!」
むくれるアクアに、クスクス笑いながらウィングは立ち上がる。
「もうそろそろあいつに水でもやってくる。果物とか食べるかな?」
「お兄ちゃんはキャンディー好きですよ。」
「…キャンディ、ね。綿菓子でも作るか?」
キッチンに立って、オレンジをカットしながら呟いてウィングは溜息をついた。
「どうやって食わせるか、だよな。」
「そんなに悩むことないですよ。」
アクアはニコ、としてそう言った。
「ウィングが苦しむことないです。」
貴方くらい笑っていて下さい。
こんなに歪んでいても、せめて貴方くらいは真っ直ぐなフリをして下さい。
嘘でも良いですから。
「馬鹿言うなよ。俺はピエロじゃないんだから。」
風が吹く、確実に過ぎていく時を表しているかのように。
何も変えられず、それなのに何もかも変わっていく。
「何が始まりでしたっけ。」
もう記憶も曖昧な、そんな前から狂い出した歯車。
日常に戻れるように願いたくても、その日常が何かもう忘れてしまった。
過去に戻りたいって、戻ってどうすればいいのか分からない。
あの頃に戻りたいって、“あの頃”がいつかなんて分からない。
どうすればいいの、何が正しいの。
「始まりなんてないだろ。」
強いて言うなら、俺達が…いや、あいつら二人が出会ったところから。
全てが歪み、狂い出した歯車が二つ弾け飛んだ時から。
「終わりがあるのかは知らねーけど。」
多分全ての歯車が吹き飛ばない限り、きっとあいつら二人が台風の目になる。
「勘だけど、お前は巻き込まれるよ。絶対に。あいつの妹だし、あいつはお前に執着してるし。」
確実にこの世界はあいつら中心に動いてる。
魔界がいい例だよ、強すぎるホセを奪い合ってどんどん歪んでる。
「終わりも始まりもねーよ、全部があるべき場所に収まるために邪魔な歯車にならない為に逃げるしかない。」
多分俺は死ぬと思うけど、お前は生きてると思うぜ。
「お前が死んだらホセも死ぬからさ。」
俺は正直要らない。
「じゃあ、これ持ってくから。」
水とジュースとヨーグルトに刺さった綿菓子。
解熱剤と鎮痛剤を添えて、ウィングは溜息を吐いた。
「あの、ウィン」
「キースとキングが死んで分かったよ、俺は死ぬ運命だ。」
スタスタ歩き去るウィングを、アクアは追いかけることができなかった。


