「ヴィスはな、凄い良いところの出身なんだ。」
警官から逃れて歩き出して、尾行を警戒し大きく回って帰ってきた途中。
唐突にミューズがそう言った。
「あいつが?」
「鬼族の出なんだよ。」
「は?」
鬼族といえば魔王を除き差別階級での最上位の種族だ。
華族、平民、奴隷、吸血鬼と続く。
あの平等主義のセレンも吸血鬼は忌み嫌っていたようだった。
もっとも、吸血鬼は戦闘能力が異常に高く、その代わり貴重種と呼ばれるごく一部以外はまともな頭脳を持たないと言われている。
鬼族は吸血鬼に次ぐ戦闘能力の高さを持ち、それでも遠く及ばないが優秀な頭脳を持つ。
他の家系が色々な種族なのに対し、鬼族は鬼と鬼が交われば必ず鬼が生まれる。
兄弟同士でしか殆どの場合結婚はしないので、鬼族は狭く長く続いているのだ。
「でもあいつ狼だろ?」
「種族転換手術を受けたらしい。なんで人狼かというとロスが動物好きだから。」
「…あ、そ。」
「まあ、裏を返せば鬼族以外ならなんでも良かったんだよな、ヴィスは。上の兄さんが優秀らしくて、妹も居たんだけど能力ないからって引き離されて。」
妹ちゃんは一番上の兄さんと婚約したってさ。
「死神に相思相愛の子がいたらしいんだけどね。まあ、宿命ってやつ。」
ヴィスは鬼族の能力を捨ててまでロスと一緒になりたがったんだよ。
「へ?セレンは人狼なのかよ?」
「えっちがうだろどう考えても…知らないのかよロスの種族。」
「ああわり知ってる知ってる言わなくて良い。できればあいつらにも言うな〜気にしてるから。」
「そうなのか?」
ミューズは首を捻っていたが、フェニックスは肩をすくめた。
「ま、何がともあれだよ。ヴィスは勘当食らってんだけどロスと仲良いだろ?
ロスが有名になって、親がいないって話になってからヴィスの家族がロス取り込もうとしてんの。」
それが相当嫌みたいでさ。
それもロスがまだちっさい頃はヴィスはロスに関わるなとまで言われてるんだ。
手の平返してる家族にどうしても信頼が置けないんだろうな。
それに。
「ロスが有名になる度にヴィスが比べられるようになった。」
あんだけ見た目が似てるからしょうがないっちゃしょうがないんだけどな。
ヴィスはロスを恨んではいないけど結構辛い思いしたらしいぜ。
「…そりゃお気の毒に。」
あんな超人と比べられるなんて考えただけでもゾッとする。
「だからヴィスにはあんまり」
「黙れ!!俺は先輩じゃないんだ!!」
やっべ、遅かったかとミューズは青ざめた。


