二度あることはやっぱり三度あったようで、ヴィセーブはまたもや泣かされた。
ミューズは鎌を担いで仕事に行った。
「…何さ、その鎌。」
「ちょっと人間界に行ってくるんだ。この鎌で魂が狩れるから、ちょっと間引いてくる!」
間引く。
何やら嫌な予感しかしないが、ミューズの仕事らしいので(結婚詐欺は副業らしい)送り出した。
「でもミューズ先輩は凄いんだ。」
セレンは道中そう言った。
「人間界に行って間引きなんて、一握りしかできないんだぞ。」
他は大抵呪いのグッズを作っているらしい。
両手に麻布を巻きつけ、口輪をつけて足枷付きで歩いているセレンに全員でスピードを合わせる。
セレンはセレンで必死なのがわかるのだが、通っているスラムに隷族以外の住民が通るたびにセレンは跪いて俯いていなければならない。
その後立ち上がって走り出すのだが、やっぱり上手く走れない。
そのすれ違う相手はセレンをチラッと侮蔑的に見てから、ヴィセーブがジッと見ているのに気がついて慌てて去っていく。
「俺は華族だから。あいつら平民なんだよ。」
俺がいなかったら先輩のこと好き勝手しやがるんだ。
ヴィセーブは憎々しげにそう言った。
「ヴィス、もう先に行っていろ。後で合流するから。」
4度言ったことは5度言う。
セレンにヴィセーブは首を振った。
「…あともうちょっと。」
そしてついた先の森の入り口。
【SLAVE no Trespassing】
(隷族立ち入り禁止)
「…っ」
ゆら、とセレンの視界が揺らいだ。
「…」
ヴィセーブはグッと唇を噛んだ。
尻尾と耳はひょこりとは生えず、皮膚を突き抜けるように出現した。
凶暴な牙が生え揃い、骨格も大型の獣のそれに変化していく。
それにつれて衣服が裂け、毛に覆われた身体が現れる。
ギラッと輝いた狂ったような瞳に、フェニックスすら気圧された。
「うぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁああ!!」
酷くその声は響いた。
「あーもー。ったく、また壊す気?」
バシン、と頭を叩かれヴィセーブは気を失った。


