「オーリオン♪」
「…なーあーにー。」
「ん、上手上手。」
「あーりーがーとーさーんー。」
「うんうんいい感じ!」
「…はーあーいー。」
「今のはちょっと違うかな。」
「ごーめーんーなーさーいー。」
ゼウスは無愛想を解消しようと全音伸ばさせるというめちゃくちゃな作戦に出た。
しかしこれが功を奏し、顔さえ見なければ大抵可愛いという素晴らしい結果を生んだ。
「ごーしゅーじーんーさーまー。」
「ん?」
「おーれーかーわーるーよー。」
「いいのいいの。お前はそうやって座ってろ。」
「でーもーすーてーらーれーるーのーいーやーだーかーらー。」
「捨ててたまるか本当にお前は!」
噛みつこうとした所に、船が激しく揺れた。
皿を並べていたゼウスはバランスを崩し倒れる。
宙に放られた皿は芝生に衝撃を吸収されヒビで済んだが、ゼウスは思いっきり投げ出されその皿に顔から激突した。
「うっ…」
「あーごーしゅーじーんーさーまー。」
こういう場面になると腹立たしい。
「いーそーいーでーてーあーてー。」
「平気だよ、心配すんな…」
あれ?
「ごーしゅーじーんーさーまー。」
「なんでぐるぐる回ってんの…?」
あ、やばいやつだこれ。
やばい、俺どこ打ったの。
やっべえ視界がぐるんぐるんしてる…
「ごーしゅーじーんーさーまー。」
言葉だけは遅い、オリオンが駆け寄ってきてゼウスを支える。
おえっ…
ごめん気持ち悪い…
どいてオリオン、吐いちゃう…
服が汚れるのも構わず、オリオンはゼウスの背中をさすっていた。
吐瀉物が酷い臭いを放っていたが、表情一つ変えず、抱きしめるようにしてゼウスを庇うように優しく背中を撫でる。
「どいて…おうぇ…オリオン…うええ…」
「んー。」
どく気配はない。
吐瀉物に塗れて顔色が変わらない。
恐ろしい精神力だ。
「…」
「ごめん、も、いいから本当に、ゲボッ…オリオン、も、離れて…」
「…だーれーかーきーてーまーすー。」
「も、それいいよ…伸ばすの…」
「はい。あの、誰か来ていますご主人様。」
「う…ん…」
「テンガロンハットの男…いや女が…」
「!」
ぐわん、とゼウスは立ち上がる。
しかし脳が揺れて膝から崩れ落ち、またオリオンに枝垂れかかってしまった。
「ごめん…オリオン…」
「いいえ。」
労わるような優しすぎる抱きしめ方。
ゼウスはつい涙が出そうになったほどだった。


