「お兄ちゃん?」
血に濡れた頰を拭いながら、虚空を見つめるホセを、アクアは不安げに覗き込んだ。
「平気だ。」
「平気そうに見えません。」
「別に、考え事。」
ホセはそう言って、ふふと笑った。
「気にしなくていい、恋人のとこに行ってろ。」
「恋人?」
きょとん、としたアクアをホセは呆れたような目で見た。
「まさか、違うのか?」
「誰とですか?」
「恋人でもない男と寝たのか?」
「だからどなたですか?」
「…お前には貞操観念というのものがないのか?」
「ありますよ。」
「…嘘つけ。」
「誰彼構わず下着見せたりしないですもん。」
「それは犯罪か否かの問題だ。お前が露出狂だとは思ってなかったぞ…赤髪はお前に一体どういう教育をしたんだ?」
「よしよししてくれました。」
「お前ちゃんと俺の質問理解したか?」
ホセは濡れたタオルを畳みながら、アクアにそう言った。
「まあいいか、お前あの銀髪と付き合えよ。あいつ独占欲が強そうだ。」
「ウィングですか?」
「ウィング、へえそういう名前か。そうだ。あいつちょっとヤンデレっぽいけどまあ問題ないだろ。ベッドに拘束くらいは我慢だ。」
「嫌ですよ。私はお兄ちゃんに人生捧げたんです!!」
「…それもどうかと思うぜ。」
変に主張するアクアに苦笑いしながら、ホセは頭に手を伸ばした。
「よしよししてやるよ。」
さっきまで血濡れていた手を、戸惑うことなくアクアの髪に潜らせる。
アクアもアクアで嫌がることなく、その手を受け入れる。
「気持ち良さげだな。」
「久しぶりですから…」
ふしゅっと潰れたアクアを、ホセは抱きしめた。
「赤髪は可愛い妹を持って幸せだな。」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんですから。黒髪ホセもお兄ちゃんですよ?」
「ククク…悪いが俺の家族は吸血鬼だけだ。血の繋がりを感じる。」
「お兄ちゃんのご両親はお亡くなりになられたんですか?」
アクアは意外そうに言った。
「私の両親…お兄ちゃんの姉弟は死んだって聞きましたが。」
「あんな奴らが俺を産んだとは思いたくないが。死んだよ、事故で。」
「…え。」
微笑んで言ったホセはアクアを抱きしめた。
「そもそも俺がこんなになったのは両親のせいだしな。赤髪はショックだったようだが、あんなクズに一体」
はは、苦笑いしてホセは目を閉じた。
「まあいいか。結局死んだんだし。」
「…はい。」
「恋人のとこ行けよ、俺とお前は似合わない。」
赤髪じゃないけど、悪戯っぽくそう言ってホセは危険な輝きを増した瞳でアクアを熱っぽく見た。
「お前は食料ととほぼ同義だ。」
目を逸らして、ホセは立ち上がって吐き捨てた。


