「じゃあ一つ聞いてもいいか?」
「ああ?」
ウィングの問いかけに笑顔で応える。
「お前の弱点って何?」
「弱点?」
「怖いもの、苦手なもの、大切なものだよ。」
「ウィング…!」
「黙ってろ!…質問に答えろ!」
さもおかしそうにホセは微笑んで言った。
「俺だな、俺が最も恐れる。俺の唯一の天敵。」
え、とアクアが言った。
「あいつは俺とは違う。まるっきり他人だ。同じ肉体を共有してるが?」
俯きながら微笑んで、ホセは笑った。
「まともに戦えないから。体痛めつけられるしネックレスで抑え込まれるし」
「抑え込まれる?」
「そうだよ、水色髪。今は逆に俺があいつを抑えてるが。」
チラリ、笑って見せたペンダントは逆十字の黒い紋章。
赤髪のホセがシンプルな金の十字架を、鎖に通し首にかけていたことを思い出す。
「悪魔にも天使にも神にも、完全態、半魔態、人間態があることは知っているだろう?俺は完全態、あいつは人間態だ。」
普通吸血鬼は完全態にしかなれないんだけどな。
「でも、完全にじゃないだろ。完璧に人間態になったら魔法すら使えなくなるし。」
「あいつのかけてた鎖は、一つ一つの輪が俺の能力を封じてる。飛行能力や暗視能力、回復能力…吸血の能力は… まあ、当然。」
酷いよなぁ、とホセは溜息をついた。
「好都合な能力は鎖を潰して開放してさ。好き勝手利用して虐げて」
悪魔はどっちだよ、と呟いたホセの手先は僅かに震えていた。
「あいつは…俺を生き物とすら見てない…俺を閉じ込めて、嗤いながら痛めつけて…平気な顔して…」
ポロ、と涙が溢れて、それをウィングは驚いた顔で見つめていた。
「確かに人は殺したけどさ、楽しんでなんかないのにな。あいつに追い詰められて追い詰められて…どうしようもなく飢えてただけなのにな。悪かったけど、人格まで全否定されなきゃいけねーの?生きてるだけで罪だとか…そこまで言われなきゃいけない事なの?」
シンプルな椅子にうずくまって、ホセは笑った。
「分かんない。あいつが普通なのか、異常なのかすら…俺って、クズなの?」
分かんない。
ホセは繰り返した。
「人を殺した奴はクズなの?そいつは何されても文句言えないの?死ぬほど辛い事されなきゃいけないの?」
吸血鬼ってだけで、何しても救われないの。
「別に、殺しが楽しいわけじゃないのに。」
笑ったホセは繰り返した。
分かんない。
「俺たちを殺そうとするのはそっちなのに。」
そっちの方がよっぽど悪魔だ。
「普通に食事が取れてたらほんの一口で一週間はギリギリ持つのに。しょっちゅう襲われなかったらもっと少なくて済むのに。」
いつ食べ物を口に入れられるかわからないから乱獲が絶えない。
「…まあ、いいよ」
ホセはそう言ってにっこりした。
「…慣れてるし?」
クスと笑ったホセがぎゅっと、ペンダントを掴んだのは。
気のせいなんかじゃないとウィングは思った。


