にゃんて。

にゃんて…美しいんだにゃぁ…


絶対的な美しさの前に、反射的にヤーンは跪いた。

こんなに美しいものから、何で逃げていたのだろう。

この美しい少年によって最期を迎えるなら。

寧ろ。

「本望にゃぁ…」


だがヤーンを、ホセはすぐに殺そうとはしなかった。

言葉通り、ヤーンと遊ぼうと思ったのだ。

「なにしてあそぶ?」

「何…したいにゃ?」

「…じゃれあっこ。」

「分かったにゃ。」

至って、自然に。

血濡れた城内で二人は楽しげに遊んだ。

転げ回って、笑いあって。

異常としか見えないその光景は、ヤーンにとっては何の違和感もなかった。

そもそもが猫であるヤーンにとって、飼い主…仲間とじゃれあうことは当然だったのだ。

「ヤーン…」

「!」

一瞬、自分を呼ぶ声が聞こえた気がしてヤーンはハッとしてホセを見た。

僅かに赤みを帯びた瞳がヤーンを捉えた。

「殺…して…ヤーン…怖い…の…」


そうにゃ、ホセくんは、本当はもっと優しい子にゃ。

ホセくんは今、恐怖に苦しんでるんだにゃ。

また苦しめられるんじゃにゃいかと…

助けなきゃ。

でも…っ


「できるわけ、ないにゃぁっ!!!」

猫である自分には、彼を救うのは無理だと。

完全に分かり合うなんて無理だと。

ヤーンにもそれくらい分かった。

でも人間のあてなんて…

「!」


金髪にゃ!!

ホセくんと分かり合っていたあの金髪にゃら、救ってくれるにゃ。

恐怖で暴走し続ける、ホセくんを。

ホセくんの恐怖を、取り去ってくれるにゃ!


“じゃれあって”、ほとんど下半身はなくなってしまった。

それでも痛みを堪え、ヤーンは最後の魔法を使った。

魔法陣が展開される。

左手で何とかそこに身体を突っ込み、思いっきり叫んだ。

「助けてにゃ!ホセくんは、ホセくんは本当はとっても優しいんだにゃ!!怖がってるんだにゃ、ホセくんはとっても、とっても怖がってるにゃ!!」


それだけなんだにゃ…


ぐいと引き戻され、魔法陣は消えた。


薄れゆく意識の中で、ヤーンはぼんやりと思い出していた。

水牢の中で、そっと微笑んだホセ。

ポロポロと、頬を濡らすホセ。

拷問に苦悶する、ホセ。


もっと見たかったにゃぁ。

もっと色んな、ホセくんを…


「好きだにゃ…ホセくん…」


本当に最後、ヤーンはフェニックスに嫉妬した。

フェニックスのように、ホセともっと早く出会いたかった。

そうしたらきっと…


もうほとんど動かない片腕で、ヤーンはそっと覆い被さるホセの服を掴んで。

最高の笑顔で、ヤーンは笑う。

「ホセくん…大好きにゃ…」


ホセくん。


何度も何度も、ヤーンは呼んだ。

幸せそうに、愛おしそうに。

恋にも似た感情を、その声に乗せて。

君の中で、僕は何番目に残るのかな。


「…ホセくん…」


身体を噛み千切られる度に止まる声がもどかしかった。

歪んでいく視界が、今にも消えてしまいそう。


「ホ…セ……く………ん…………」

その声がゆっくりと途絶えて。

そして掴んだ手がパタリと落ちるまで、そんなに時間はかからなかった。