「…あーあ。」
特有の死の冷気がキングを包んで離さない。
走ったが、間に合いはしないだろう。
ほら証拠に、前方から聞こえてきた鈍い音。
ヒトが殴られるオト。
「…ウィング!」
クラ、とこちらを見たホセの顔を見て分かった。
暗い、暗い闇の底に沈んだような瞳。
何もない空洞の中に、隠しきれない後悔と憤怒、懺悔、絶望、恐怖。
喪失。
「…」
こぽ、とホセの口の端から血が流れた。
純真な輝きを喪った、暗い闇の瞳。
光を全て吸収したかのような真っ暗な表情で、ホセはこちらを見上げる。
「…」
ホセが口を開いた。
「…殴らねーの?」
浅い嗤い、深くに蠢く恐怖。
「…」
胸ぐらを掴むと、笑みを深くして恐怖を覗かせる。
なんだかんだ言って怖いのだろう。
そこへ現れたウィングが背後から思いっきり脇腹を抉った。
「…っ」
顔を歪めて俯いたホセは、荒い息で両手を握っていた。
余程効いたと見える。
ギュッと目を閉じ、涙が流れた。
それをさとられまいと気丈に振る舞って倒れ伏す。
守りも逃げもしないホセに、ウィングはただ憎しみをぶつけ続ける。
一方的過ぎる暴力の嵐に、ホセは俯いたままただ耐える。
ドス、ドスという音が次第に水気を帯びてきて、ビチャビチャと耳障りに血が跳ねる。
「ウィング、もうよせ。」
無言の時間をキングが破り、ウィングの肩を掴んだ。
「それ以上したらホセが死ぬ。」
「…から…んだよ…!」
キッと、ウィングはキングを睨んだ。
「だからなんだよ!!こいつが死んで何が悪い!こいつはキースを殺した、もうそれだけで死ぬ理由には十分過ぎる!!」
「アクアやフェニックスのことも考えろ!!こいつは色んな奴に必要とされてる、愛されてるだか」
「ふざけんな!!愛されてりゃ誰かの大事な人奪って良いのかよ、俺は泣き寝入りかよ!!」
「ホセもあの時は正気じゃ」
「正気じゃないからなんだ?狂ってりゃ人殺して良いのか!?」
「ウィング、頼むから…ホセだって自分のこと死ぬほど責めてるんだよ、頼むからホセを攻撃するな…」
「それはどうやって証明できるんだよ!!」
目を見ろよ、キングは泣き出したかった。
記憶を失ってた方が絶対幸せだった。
思い出した今、ホセはどうあっても自分を責めるに決まってる。
どうやっても…
「…別に、キースなんてどうでもいい。」
案の定、ホセはぶっきらぼうにそう言った。
「あいつに世話になった覚えもなければ、ただの足手まといだったし。単に襲うのが簡単だったし。」
弱いから。
「感謝して欲しいくらいだよ、俺からしてみれば。」
あの役立たず葬ってやったんだぜ?
ウィング、気づけ。
ホセがどれだけ苦しそうに顔を歪めてるか。
今にも崩れそうな位に泣きそうになってるか。
ウィング、気づけ。
あいつがどんな奴か思い出せ。
自分を異常な位に真っ先に責め立て。
自分の苦しむ道を必ず選ぶ。
ウィング、ホセがどんな奴か。
ずっと見てきたろ?
ウィング…
「…」
殺してやる、殺意に漲った瞳でウィングは囁いた。


