「えっ? 主人が行方不明?」

 札幌の自宅に連絡が入ったのは、お昼近くだった。
 彼が、今朝から姿を消したと言う。
 携帯に電話しても、電源が入っていないのか、繋がることはなかった。
 会社としては、引き続き連絡が入るのを待ち、夜になっても連絡が取れない時は警察に捜索願を出すという事だった。
 平山陽一は、彼のホテルを尋ねた。
 フロントには鍵が預けられたままで、夕べは戻っていない様子だった。
 彼と最後に別れたのは陽一だ。
 一緒に飲んでいる時も別に変わった様子はなかった。
 真面目な彼が、会社に連絡もせず、いきなり欠勤するとは考えられなかった。
 何か事件に巻き込まれたのかもしれない。
 彼と連絡が取れないまま、時間だけが過ぎていった。


 それから三日が過ぎても、彼が自宅に戻る事はなかった。

 小池直美と娘のかおりは、福岡に来ていた。
 応接室で上司と話したが、警察からも何の連絡も無く、手がかりがないということだった。

「平山さん、あなたが主人と一番親しかったとお聞きしています。主人の失踪に、何か心当たりはありませんでしょうか?」
「それが、何も思い当たる事はないんです。聡史と飲みに行って、最後に別れたのは自分なんですが、何も変わった点はありませんでした」
「そうですか・・・。あの、こんな事、聞きづらいのですが、主人に誰か女の人がいたという事は?」
「そんな事ありえません。それは奥さんが一番わかっておられるはずです。あいつは奥さんとお嬢さんをとても愛しています。飲んでいる時も、かおりちゃんの写真を見せてくれて、お前も早く結婚して子供を作れと言ってました。子供が自分の一番の宝だって」
「そうですか」
「でも、どうしてそんな事・・・」
「気になっている事があるんです。彼とは札幌で出会いました。彼は明るくて優しい人です。でも、福岡の事が話題に出た時、寂しそうな顔をする事があったんです。あまり触れては欲しくないような思い出が、ここ福岡の地にあるのかな・・・と」
「触れて欲しくない事・・・。それってもしかしたら」
「心当たりがあるんですね?」
「いや、しかしそれはもう済んだ事で・・・」
「教えて下さい。どんな事でもいいんです。お願いします」
「実は聡史には、昔付き合っていた女性がいました。名前は西田洋子(にしだようこ)といいます」