桜がひらひらと舞い落ちる、見上げて機械音を一つ、二つ、三つ。

あの瞬間は今ここに残っていて、それに彼女は微笑みが零れて。


「何、やってんの?」


穏やかで温かい風の吹く中、彼女のすぐ後ろから、耳をくすぐるような優しく低い声がした。

振り返るとそこには、木々の邪魔が入らないところから零れ出す太陽の光に反射する茶髪に可愛らしいたれ目で。

顔が整っていて、彼女よりもすこし背が高い彼は怪訝そうな目を彼女に向けてきた。

彼女は鈴のような可愛らしい声でクスクス笑った。


「…私が思った最高の一瞬を今、このカメラにおさめたの」


彼女はカメラを見せて、楽しそうに小さな口で口角を上げた。

天然のくせ毛でふわふわで長い髪は、風に便乗するので片手で押さえて。


「あなたは?」


すると、彼は微笑んで答えた。

微笑んだとき、日焼けでちょっと焼けた肌に、目立つ白くて可愛い八重歯がちらっと見えた。


「俺はサッカー、ドリブルとかいろいろ練習した!」


さっきの印象とは違う、少年らしい笑顔だった。

よく見ると、足元にはサッカーボールがあった。

それには、平仮名の文字で《とおやま  ゆうき》と書いてあった。

消えかけてもいるので、おそらく幼い頃からサッカーをしているのだろう。


「…そうなんだ。サッカー大好きなんだね、伝わってくる」


彼女はまっすぐ見つめて日差しが眩しいのか、目を細めた。

すると突然、彼は嬉しそうに彼女の手を取って、走りだした。


「お前が言う最高の一瞬を、サッカーしてる俺で撮ってみて」


彼女は驚きつつ、知らない彼の手を握り返して走った。

いや、もう知っていた。

容姿端麗なところもサッカーが一途に好きなところも、物を大事にするところも、足が速いところなどこの短時間でいっぱい知った。

桜吹雪の中、彼女は自分の長い髪が自分の顔の前へたなびくのを空いている手で防ぎ、前を確認するかのように見ると、ふいに彼と目が合った。

彼に長い髪が当たったのか、きっかけはわからないけれど、確かに彼女を見ていた。

だって彼の瞳には私が、私だけが映っていたから。

この一瞬がとても長く感じた。

それはまるで、彼女がいつも好きな一瞬を収めるかのようで、たまに起きるこの現象。

その長い一瞬にも終わりがあって。

彼はゆっくり前に戻った。


「…桜とサッカーと走りながらゆうきくん、収めたかった」


か細く小さく無意識にでたその言葉は彼に、彼の耳に届いたでしょうか。

いや、届きました。

それは彼の耳が今、可愛らしく紅くなってるから。


「俺はサッカーしてるところがいいんだよ」


それは素っ気なく、冷たい言い方。

もしかしたら、照れ隠しなのかもしれない。

もしかしたら、怒ってしまったのかもしれない。

そんな中でも、さっきの彼の顔が離れなかった。

まるで、揺れ動いていて何かから逃げているかのような、怯えてるかのような瞳だった。

そんな不安定な瞳と桜は、とてもお互いの魅力を惹きあっていた。

桜はおめでたい時にも、悲しい時もどんなときでも惹かれる魅力があった。

特に、悲しげな場面ではとても似ていて桜吹雪のような桜が散っていく様子では特に際出せている。