僕の隣りで「お野菜いっぱい食べる」と宣言してから食べ始めた優衣ちゃんが、はふはふとすき焼きを頬張っているのが微笑ましい。
向かいに座っている亜紀さんは、少し食欲が戻ってきたのだろうか、ゆっくりとだけどおかわりしながら食事をしていた。
そして、困ったことになったのが親父……
「……先生、何ビール飲んじゃってんですか」
「うるへー。自分の家で晩酌くらい、いいだろー別に!」
「帰りは車で送るって言ってたくせに」
「……あっ」
今更もう白々しさしか感じないんだけど、教授はやっべ!という顔で視線を逸らす。
奥さんはそんな教授を一睨みした後、僕に声に泊まっていくように勧めてくれた。
「ちょうどよかったわ。ゆっくりしてもらいたかったから、お部屋もお布団も用意してあるの」
「え、いえいえ!終電までまだありますから、おかまいなく……」
「でも予報では遅くなるほど冷えるって言うし。ここで南くんが帰るって言ったら、きっと行き着くところは優衣の大泣きだわ」
「………」
すでに優衣ちゃんは僕の服の裾を握りしめて、涙目で見上げている。
そっちに話が行くと、僕も弱いなあ……
この日は何度も奥さんにお礼を言われて心苦しくなったり、僕と寝るまで遊べると知った優衣ちゃんとお互い疲れるほど遊んだり、なんだか忙しい一日になった。
*
旅館か!とつっこみたくなるような綺麗な和室を与えられ、高級感出しまくりの羽毛布団で睡眠をとった僕は、朝五時にこっそりと起き出した。
学校に行く前に家に帰りたかったから、書置きをして電車で帰ろうと思ったんだ。
上着を着込み、昨日通されたリビングに行ってみると、そこにもう明かりがついている。
ガラス戸越しに中を見てみたら、肩にショールを掛けてソファに座っている亜紀さんの姿があった。
「……おはようございます」
「……南くん?早いんですね」
「亜紀さんこそ。どうしたんですか」
「………」
訊ねた僕と一瞬合った目が、また落ち着かない様子で揺れた。

