「……優衣ちゃん、じいじの所に行きたい?」
「やだ」
「だそうですよ。仕方ないじゃないですか」
「うるさい、俺は別になんとも思ってないんだからな!」
「はいはい……」
気まずいながらも進んだ先の玄関で、亜紀さんと奥さんが並んで立って待っていた。
さっきの開門と同時に、中に伝わるようになっているのか。
都心の一等地にこの邸宅。
よし、僕も絶対頑張って――――――――いい奥さんもらおう。
「まあまあ!南くん、突然お呼び立てしてごめんなさいね!先日は亜紀と優衣が大変お世話をかけてしまって……」
「こちらこそ。ご挨拶もせず失礼いたしました」
「若いのに立派な方ねえ。どうぞ、上がってくださいな」
奥さんの完璧なまでのおもてなし精神に感服する。
優衣ちゃんを下ろして靴を脱ぎ、差し出されたスリッパに足を通して顔を上げたら、服の裾がクンと小さく引っ張られた。
振り返った先にいた優衣ちゃんが両手を広げて見せたので、意図していることはすぐに分かった。
「こら優衣!お客様に甘えないの!」
強めの口調で亜紀さんに注意され、優衣ちゃんの手が委縮する。
どちらの気持ちも分かるだけに、僕は苦笑いをしつつ優衣ちゃんに向かって屈んだ。
「なんだか気に入ってくれたみたいだね」
「うん。だって優衣の手よりお空が大きくなるんだもん」
「……空?」
「ほら、あっちあっち」
僕を引っ張って再び外へ行こうとする優衣ちゃんを、亜紀さんが慌てて止めに入った。
「優衣、もうお靴も脱いだでしょう?ワガママ言わない」
「ええー」
不満いっぱいの優衣ちゃんと、明らかに怖い顔を作っている亜紀さん。
二人の間で視線を往き来させていたら、ふとお母さんの方と目が合った。
何か言われる前にニヤリと唇の端を上げて見せたら、亜紀さんの目が僅かに見開かれる。
「ママ怖いから、こうやっていこうか」
僕は自分だけ靴を履き、座ったままの優衣ちゃんを抱き上げた。
優衣ちゃんがさっき悲しい涙を流していたのを知っているから、甘やかしてあげたかったんだ。

