もう傷つかないで欲しい。
誰にも何も劣ってなんかない。
むしろ支え合う母子の姿がどれほど尊いのか、君たちが僕に教えてくれたじゃないか。
「優衣ちゃんは自信を持っていいよ」
「じしんって何?」
「そうだなあ、自分は正しいって信じることかな」
僕の顔を見上げていた優衣ちゃんが、強く頷いた。
揺れる車内でチャイルドシートに座るのを手伝っていたら、運転席から忍び泣くじじぃ……もとい、須藤教授の声が聞こえ始めた。
「うっうっ!ふうううううんぬ!」
「慰めませんよ」
「……なぜだ!なぜお前は俺にだけ冷たい!」
「面倒くさいんで」
教授は前を向いて「ふん!」と鼻息をひとつ寄越す。
ミラー越しに見るその顔が思いっきりの泣き顔だったものだから、優衣ちゃんと手をつないだまま笑いを噛み殺した。
肩の揺れが伝わったのか、優衣ちゃんはそんな僕を不思議そうに覗き込んでいた。
*
僕が須藤教授の家を『須藤邸』と呼ぶのには理由がある。
娘ラブ、孫ラブのどうしようもない親父だが、曲がりなりにも有名大学の教授なのだ。
オートロックで開ける感覚の門が、グオンと音を立てて横ではなく上に開く。
駐車スペースも優に大型の車三台は停められそうだ。
専門の業者でなければ手入れは難しいだろう庭に、玄関までの長い道のり。
「……むかつくなあ」
「羨ましかったらお前もこのくらいの家建てて見せろ」
「先生の場合、完全に内助の功のおかげだって分かりますけどね」
「っとに、お前はいつもいつも可愛げのない……ほら、さっさとついてこい!暗いからって転んで優衣に怪我させるんじゃないぞ!」
「そんなことしませんよ」
親父の背中が怒っている理由はこれだ。
優衣ちゃんは車を降りてからも、僕に抱っこをせがんだ。
車の中から機嫌は持ち直していたけれど、どうやらここ何度か会う内に、抱き上げられて移動するというのがお気に召したらしい。
大した負担にもならないから「いいよ」と言ったのだけれど……これが孫バカ親父としては面白くなかったのだろう。

