「だから感激しちゃって。遠足のおやつなんて羨ましいです」


亜紀さんはそんなことを言って、噛み締めるように口に運んだ。


「懐かしいな。他にも蒜山高原のヨーグルトが最高に美味しいんです。初めて東京に来たとき、どうしてこっちで売ってないんだろうって不思議でたまらなかった。あれを食べたら病み付きになりますよ」


「蒜山高原って聞いたことあるかも……」


「そうそう、みんなその名前は知ってたりしますね」


ゼリーを口に含んだまま、亜紀さんがフフっと笑いを漏らした。


くそう、そんなに嬉しそうに食べられたら………また買って来ちゃうんだろうな僕。


たぶん吉備団子も一緒に。


「食欲が戻ったら何か食べに行きましょうか」


「あ、でも……」


一瞬喜んだ顔をした亜紀さんが、その後すぐに肩を落とした理由はもう分かっていた。


「優衣ちゃんもね。ケーキとか好きかなあ」


「……優衣も連れて行ってくれるんですか」


「もちろん、そのつもりですけど。二人の方がよかったですか?」


流れでからかってみたが、どうやら僕の冗談は通じなかったようで………亜紀さんの顔は目に見えて赤くなった。


や、ちょっと!そんな純情な反応されるのは予想外なんですけど!


ゼリーのカップで隠しきれていない目元だけの亜紀さんの顔を見たら、申し訳ないけれど全く年上の女性には見えない。


まだまだ誰かの庇護が必要な、か弱い女の子に見えてしまう。


「……驚かせてすみません。あの、冗談ですよ?」


「そういう冗談はちょっと苦手です」


「そうみたいですね……」


さっきまで散々僕の手を触りまくってた貴女が、初めて口説かれた女子みたいになってしまう方が、よほど冗談みたいなんですけどね。


「小さい子でも入りやすそうなお店調べておきます。はやく外出できるくらい元気になってください」


「はい」


なんだか最後は食べ物で釣ったみたいな形になってしまった。


でも亜紀さんは嘘のない笑顔で「本当に楽しみです」と言ってくれたので、僕の勇気も救われた。