「……そういうのも、いいものですね」
「はい」
全く反対の言葉が隠れているかどうかなんて、気にしなくてもいいわけだ。
疑わなくていいなんて、こんなに楽なことがあるだろうか。
「南くん、まだ時間はありますか」
「大丈夫ですよ」
「よかった。冷蔵庫開けてください」
言われたままにすると、飲み物やタッパーの脇に、見覚えのある容器が二つ並んでいる。
「一緒に食べたいなと思って残しておいたんです。競争率が高くて大変だったの」
亜紀さんが重そうに体を起こしにかかったので、僕は急いで肩に腕を回して支えた。
たぶんまだ動きにくいのだろう。
「入院して食欲が落ちているんですけど、それは本当に美味しいくて、しっかり食べられたんです」
「そうなんだ、ゼリーにして正解だったなぁ」
子供の頃からデザインが変わらない容器を手にとって、懐かしい気持ちと誇らしい気持ちを味わった。
シンプルに美味しいと言ってもらえるより嬉しかったかもしれない。
「優衣は吉備団子すごく喜んでました。本物を食べたんだって自慢してましたよ」
「保育園でも言いそうですね」
「ほんとに!絶対言いふらすでしょうね」
簡単に想像がつく優衣ちゃんのドヤ顔に、二人して笑ってしまう。
僕はパイプ椅子に腰を下ろして、いそいそとゼリーの蓋を開けた。
「スプーンが蓋の内側にセットになってるなんて、優秀過ぎますよねそれ」
「気軽に持ち運びして欲しいって言ってた気がします。地元では遠足のおやつの定番でした」
「言ってたって、誰がですか?」
「これ作ってる人が。地元にある和菓子屋さんの商品なんです、これ」
はい、と亜紀さんの手にゼリーを持たせた。
溢さないかという失礼な心配をしてしまうのは、今日の流れでは仕方がない。
「すごい方とお知り合いなんですね」
「いやいや、芸能人プロデュースとかいう訳じゃないですから。単なるご近所付き合いです」
「私……実は桃が大好きなんです」
恥ずかしそうにカミングアウトをされた。
……実はもなにも、そのくらい二回目に会ったときから知っているのだけれど、一応「そうなんですか」と、大人の対応をしておく。

