「優衣ちゃんと約束していた吉備団子を届けにいきたいなと思って、前もって連絡させてもらったんです」


『ありがとうございます、すごく喜ぶと思います。うちは夜には大体……ケホっ』


「……亜紀さん?大丈夫ですか?」


受話器を離して咳込んでいるのが伝わる。


風邪でも引いているんだろうか。


『失礼しました。初詣に行って風邪を引いてしまったみたいで。薬も飲んでるので平気ですよ』


「熱は?」


『ないですよーほんとにほんとに』


カラカラ楽しそうに笑っているけれど、本当かなあという疑いは残る。


口数が少なくなった僕に気付いたのか、南くんは久しぶりの実家はどうでしたか?などと逆に質問されてしまった。


雪が積もっていたことや、旧友に会えた話なんかをついつい話してしまうのは、亜紀さんが絶妙なタイミングで相槌を打ってくるせいだと思う。


この人は他人の話を聞くのがとても上手だ。


「すみません、長電話してしまった……」


『いえいえ。楽しいお話を聞けて嬉しいです』


「それで、夜の方が都合がよければ五日に伺っていいですか?玄関先でお渡ししてすぐに帰りますから」


『六時には戻っていると思います。あまり気を使わないでくださいね。優衣には内緒にしておいた方がいいんでしょうか』


「そうですね。その方が驚きがあって面白いかもしれませんね」


優衣ちゃんにまたサプライズでプレゼントできるように、亜紀さんと口裏を合わせて電話を切った。


この計画が後で裏目に出るなんて、この時の僕は考えもしなかった。


優衣ちゃんがどれだけ喜んでくれるだろうとか、地元の名物の白桃ゼリーは亜紀さんなら絶対感動しれくれるだろうとか。


それだけで幸せな気持ちになれるような、平和な時間をもらっていた。


何度も見返すのは時計とカレンダー。


「なんとか乗りきるか……」


今日明日の食料を確保するため、僕は近くのコンビニに買い出しに行った。