体が離れ際、彼女はわざとらしく僕の肩を傷めるようにグリっと押してきた。


一応男なので、女性のこのくらいの抵抗はなんともないわけだけど……些か腹が立つ。


「私が来なかったらむさ苦しい生活しかできないくせに。本気で自分がもてると思ってんの?頭おかしいんじゃない?」


「………」


「なんも反論できないでしょう!誰にも相手にされなくなって泣いたらいいわ!」


こんなレベルの低い言い合いに、張り合う方がアホらしい。


僕は時間もエネルギーも、もっと価値あるものに注ぎたい。


「気が済んだ?」


「……!」


頬に衝撃が走ったのは一瞬だった。


「バカにして…!許さないから!」


え、それ困る。


なんだか物騒な捨て台詞を投げつけられて、彼女が出ていったばかりのドアは派手な音を立てて閉まった。


「よくあそこまで怒れるよなぁ……」


羨ましいとさえ思ってしまう。


あれだけ感情的になれたら、ストレスなんて溜まらないんじゃないか。


静かになった部屋で、コーヒーを淹れて、ようやく人心地ついた。


閑散とした部屋。


研究室で夜を明かすことも多い生活だから、温かみなど感じない。


キンキン煩い彼女でも、いてくれるだけ人間味があったと思うから情けない。


パチン


暗い部屋に置いたままのノートパソコンの電源を入れる。


そんな小さな音さえ、大きく響いた。