「クリスマスどこ泊まったの義大くぅん」


復帰の朝一番で面倒な先輩に捕まった。


上本拓磨、研究室で唯一と言っていいチャラ男だ。


院生だから研究を疎かにできるわけもなく、両方を器用にやりこなしているからすごい。


彼の頭は、研究 > 女の子 > 睡眠 という優先順位があるという。


一番と二番は時に入れ替わったりもするらしいが、とにかく後に追いやられた睡眠は、見事に目の下のクマとなって現れ、定着している。


学内で拓磨先輩からクマ先輩に呼び方が変わるまでに、時間はかからなかった。


「どこも行ってませんよ」


「またまたぁ!一人の彼女を一年も大事にしてるくせに!」


面倒くさいなぁ、この世から頭のいいイケメンが消えてしまえばいいのに。


「別れました」


「あ?何だって?」


「彼女とは別れたんです。また独りですよ僕は」


内心ビクビクして反応を窺っていたが、クマ先輩は冷やかすようにヒュウっと口笛を吹いた。


「やるなー義大!ついに振ってやったのか!」


「………」


そこを否定しなかった罪は、初詣で謝りに行きます神様。


「よく持った方なんじゃねえの?あの子は義大みたいなタイプには荷が重いと思ってたんだよ」


「なんで言ってくれなかったんですか」


「そりゃーあんだけ、嬉しそうにされちゃあねぇ……」


付き合いたてのはしゃいでいた頃を思い出そうとされて、ギクッとする。


「おはよーございます。あ、南先輩が来てる!」


後輩がゾロゾロやって来て、助かったと思ったのも束の間……鮮やかに地獄に戻される。


「ホテルいっぱいだったでしょ?いいなぁ、彼女とクリスマス。俺らなんか、ここでマウスとクリスマスだったのに」


「南先輩は金使わなくても、お互い一人住みなんだよバーカ」


「一番何でもできるじゃないっすか!ワハハ!」


神様


賽銭を五百円にしますから、いますぐこいつら黙らせて!


僕はガン無視で、ノートパソコンにひたすらデータを打ち込み、下品な会話から耳を閉じる。