さすがの観察眼。


大雑把な割に面倒見がいい先生だ。


「……そうですね、迷っていたものを受け入れてみたら楽になった感じでしょうか」


「若いのに面倒くさいなあ、南は。たまには感情に素直になってみろってんだ」


「はい。これからはそうします」


顔を見てきっぱり答えると、教授が珍しいものでも見たと言わんばかりに目を開いた。


しばらくしてふっと片側だけ唇を吊り上げて言う。


「結構だ。酒の力を借りずに答えを出せたなら立派だったろうがな」


「あ……」


指摘されて、呼気を隠すように手で口を覆った。


「答えが出たのなら無理には聞かない。あんまり一人で抱えすぎるなよ。たまには他人を頼れ」


「ありがとうございます」


会話の切れ目でチャイルドシートに座った優衣ちゃんがタンタンと後ろの窓を叩いて僕を呼んだ。


亜紀さんが手を伸ばして優衣ちゃん側の窓を開けてくれる。


「よしひろ君ばいばい」


「おやすみ、優衣ちゃん。今日は遅くまでありがとう」


「今度は一緒に遊んでね」


「もちろん。楽しみにしてる。……亜紀さん」


微笑んでやり取りを聞いていた亜紀さんの名前を呼ぶと、返事はなしに目だけをこちらに向けてきた。


急に声を掛けられて驚いたんだろう。


小さな仕草からでもこの人の心情が読めるようになってきているから面白い。


「また連絡します。仕事、あまり無理しないでくださいね」


「はい」


最後に大丈夫だよと微笑んで見せて、亜紀さんは僕から視線を外した。


車が走り出してもずうっと手を振ってくる優衣ちゃんに何度も応えながら、見えなくなるまで外に立って見送った。