戸を締め、廊下を歩き、依頼人などを持て成す客間へ案内する。
その隣が、私と辻が唯一心を交われる寝室になっている。
「今日は、あの子はいないのかしら?」
それ、今聞く?
「あら、もしかして喧嘩でもしちゃったの?」
「違うわよ。ここ連日の仕事続きで、家に帰っていなかったから、今日は帰したの」
茶を沸かし、茶飲みへ注ぐ。
危険を冒してまで手に入れただけあって、とてもいい香りのお茶だ。
これなら、姉様も満足するだろう。
「それで、なにしに村に戻ってきたのかしら。噂じゃ、村外の街で花魁をやってるそうじゃない」
「ふふっ、噂じゃないわ。ほんとのことよ」
クスクスと微笑みながら、私が淹れたお茶を啜る姉様。
一瞬、茶の味に瞳を開き、口許に手を翳す。
これは姉様の癖。
美味なものを口にした時にする仕草。
どうやら、お茶の味は満足してくれたみたいね。
「なにしにっていわれてもね。ただ顔を出しに来たとしか言えないけれど」
嘘。
姉様が理由もなくこの村にやってくるなんて、考えられないわ。
「んー、さすがお母様の娘。そして私の妹。鋭いわね」
で、ほんとはなにしにきたの?
私も、お茶を啜りながら話を進める。
「いやね、最近街で行方不明になっている少女や、女性がいるって噂が絶えなくてね。なんでも、この村の近辺、特に滝酒山の麓近くで目撃されたって話なの」
へぇ、それで、この村を見に来たってわけね。
それにしても、やっぱりおかしいわ。
「何が?」
「姉様は他人のことなんて気にしないでしょう?きっと誰に頼まれても、そんな理由でこの村にやってきたりはしない。違う?」
茶飲みを机に置き、一息吐く私に、参ったなぁなんて困り顔を向ける姉様。
そして、口を開く。
「はぁ、面倒臭い妹ね。その行方不明になっている女性達の中に、私のお店で働いてる娘がいるの」
「納得。それで、ここまで来たわけね」
その後、溜息を吐く姉様を見つめ、私も息を吐く。
確かに、この村の近辺。
特に村外へと通ずる道は猛獣や妖魔のテリトリーだ。
夜に、あの道を歩けば普通の人間はすぐに猛獣達の餌になるでしょう。
でも、村外の街、妖華街の人間ならそれくらいわかるはず。
知ってて、夜のあの道を歩くなんて馬鹿なことするはずない。
「そうなのよ。だから、変なのよ。それに、行方不明になっているのは皆、この村の出身や、妖華街の住人なの。他所の人間は一人もいなかったわ」