悲恋哀歌-熱恋-

朝食の準備でもしようかしら。
昨日は、急に姉様が尋ねてきたものだから、夕飯もまともに食べれなかったし。
「猪の素焼きにでもしようかしら」
約十日続いた猪刈りの報酬で、猪を二、三等頂いてきたのだ。
まあ、あまりいいお肉ってわけでもないが、私も辻も猪の肉をよく食べる。
朝から肉ってのは、重いけれど、依頼に向けて体力をつけて置かなければ、いざと言うとき、力が入らず、そのまま死んでしまうなんてこと、少なくない。
氷水に浸してある、猪のもも肉をまな板に載せれば、スパパと手際よく切り分けていく。
「はぁ...、辻.....」
今日も帰ってこないのかしら。
明日も、明後日も...。
一人のこの家は寂しすぎる。
「私も、実家に戻らうかしら...」
久々に、お母様やお父様の顔が見たくなった。
最後に顔を合わしたのはどれくらい前だろう。
お母様とは、先月に顔を合わしたけれど、お父様とはもう随分長いこと会っていない。
私が実家に戻ることはないし、お父様がここまで来ることもない。
同じ村に住んでいても、疎遠になるものなのね。
「よし...」
あとは、このまま鍋に入れて焼くだけ。
味付けは、塩と胡椒かしらね。
塩も胡椒も残りわずか。
また、海に行って山に行って、取りに行かなければ。
この村で塩や胡椒を売っているお店なんてないし、それなりに価値があるものなのだ。
「さて、早く食べて、お茶とお菓子の準備、と...」
早い客ならあと数十分もしないうちにここへ来るでしょう。
客へのもてなしは、これまで一度も忘れたことはない。
お母様が、この便利屋で働いていた頃からずっと、お客様には最高のもてなしをするのよ、と教わってきたのだ。
それがどんな客でも、お茶を出し、お菓子を振る舞う。
それは仕事でも同じ。
どんな依頼でも、誠心誠意、心を込めてこなす。
それが便利として一番大事はことなの。
お母様はそんなことを言っていた。
お母様が言っていたことは正しいわ。
どんな客でも、どんな仕事でも、心を持って接し、こなしていくのが便利屋の性だと、私も思う。
だから、私はお母様の教えを護り、便利屋になったんだ。
「ふぅ...、流石にお腹に溜まる...。朝から肉は、ダメだったかしら」
ものの数分で、猪の素焼きを食べ終えた私は、すぐに茶と菓子の準備に取り掛かる。
茶は、昨日波之助の依頼で採りに行った茶。
菓子は、その日の気分で決めるのだけれど、今日はカステラの気分ね。
「よし。今日も頑張るわよ」
お盆に茶飲みと菓子の乗った皿を乗せ、客間へと運ぶ。
今日の依頼は何かしら。
村の清掃や、子守、お爺さんお婆さんの散歩の手伝いなんて楽でいいわね。
あー、でも私、お年寄りの相手苦手なのよね。
何を話したらいいのかわからないし。
まあ、お年寄りの散歩以外の依頼を願うばかりね。
そして、客間の戸を開く。
そこには既に客の姿が。