私の最後の声は、よく聞こえなかった。
でも、このあとのこと、少しだけ、曖昧だけれど記憶にある。
どんなものだったかはわからないけれど、たしかに私は...。
気がつくと、目を覚まし、朝になっていた。
隣に姉の姿はなく、布団の上には書置きが。
『情報収集に言ってくるわ。今夜は宿を探すから、なにかあったらそっちに行くわね 鈴蘭』
ほんとに、勝手な人ね。
出ていくなら、起して一言くれればいいのに。
「はぁ...、私も起きなきゃ...」
布団から出、寝間着を脱ぎ捨てる。
いつもの着物へ着替えれば、仕事部屋という名の客間へと向かう。
この村の便利屋、つまり私の家は、依頼人が自由に出入りできるように、縁側の扉をいつも開けている。
玄関から入ってくるものは、大体波之助か、辻くらいだ。
まあ、今日は辻に会うこともないでしょうし、ここでゆっくり茶を啜るのも一興かしら。
「滝酒山、か。もう登りたくないわね...」
あんな、妖魔と猛獣ばかりの山、好んで登る人間がいるならよほどの変態か身の程知らずだわ。
それに、もし行くんだとしたら次は私一人で行く。
あの山は、ほんとに危険が多すぎる。
辻には二度と登って欲しくない。
「少し、過保護になりすぎじゃないかい?」
客間から見える、庭に一人の男。
またコイツか。
「何?何か用?波之助」
「僕ってそんなに歓迎されてない!?」
当たり前でしょう。
できれば、あんまり一緒にいたくないかも。
「ほんと、君達姉妹は相変わらずだなぁ...」
あら、その口振りだと、姉様にはもう会ったのかしら。
「あぁ、ついさっき家まで来たよ。久しぶり過ぎて、驚いたが、彼女も全然変わっていなかった」
「そうね。で、なんの用かしら?」
客間へと上がらせることもせず話を進める私に苦笑を浮かべる波之助。
できることなら、庭の敷地内にも入って欲しくないのだけれど。
「はぁ、冷たいな...。これでも僕達、夫婦だろう?」
契約上のね。
「まあ、いい。それより、村外の行方不明者の依頼を引き受けたんだって?」
「えぇ。そうだけど、それがなにかしら?」
「僕に出来ること、なにかな」
ないわよ。
即答。
正直、足でまといなだけ。
貴方と行動するくらいなら、一人で行動するわよ。
「....」
今のは、本気で落ち込ませてしまったか。
庭の隅で、膝を抱え俯く波之助の姿は、なんか、惨めで虚しかった。
「まあ、なにか頼めそうなことがあったら頼ってあげるわ。感謝しなさいね」
「...あ、うん」
何?他にも用があるの?
私は、これから忙しいの。
用があるなら早めに話してちょうだい。
「いや、特にないさ。じゃあ、僕はこれで帰るね。また来るよ」
もう、来なくてもいいわよ。
そんなことをつぶやいたときには、庭に波之助の姿はなかった。
でも、このあとのこと、少しだけ、曖昧だけれど記憶にある。
どんなものだったかはわからないけれど、たしかに私は...。
気がつくと、目を覚まし、朝になっていた。
隣に姉の姿はなく、布団の上には書置きが。
『情報収集に言ってくるわ。今夜は宿を探すから、なにかあったらそっちに行くわね 鈴蘭』
ほんとに、勝手な人ね。
出ていくなら、起して一言くれればいいのに。
「はぁ...、私も起きなきゃ...」
布団から出、寝間着を脱ぎ捨てる。
いつもの着物へ着替えれば、仕事部屋という名の客間へと向かう。
この村の便利屋、つまり私の家は、依頼人が自由に出入りできるように、縁側の扉をいつも開けている。
玄関から入ってくるものは、大体波之助か、辻くらいだ。
まあ、今日は辻に会うこともないでしょうし、ここでゆっくり茶を啜るのも一興かしら。
「滝酒山、か。もう登りたくないわね...」
あんな、妖魔と猛獣ばかりの山、好んで登る人間がいるならよほどの変態か身の程知らずだわ。
それに、もし行くんだとしたら次は私一人で行く。
あの山は、ほんとに危険が多すぎる。
辻には二度と登って欲しくない。
「少し、過保護になりすぎじゃないかい?」
客間から見える、庭に一人の男。
またコイツか。
「何?何か用?波之助」
「僕ってそんなに歓迎されてない!?」
当たり前でしょう。
できれば、あんまり一緒にいたくないかも。
「ほんと、君達姉妹は相変わらずだなぁ...」
あら、その口振りだと、姉様にはもう会ったのかしら。
「あぁ、ついさっき家まで来たよ。久しぶり過ぎて、驚いたが、彼女も全然変わっていなかった」
「そうね。で、なんの用かしら?」
客間へと上がらせることもせず話を進める私に苦笑を浮かべる波之助。
できることなら、庭の敷地内にも入って欲しくないのだけれど。
「はぁ、冷たいな...。これでも僕達、夫婦だろう?」
契約上のね。
「まあ、いい。それより、村外の行方不明者の依頼を引き受けたんだって?」
「えぇ。そうだけど、それがなにかしら?」
「僕に出来ること、なにかな」
ないわよ。
即答。
正直、足でまといなだけ。
貴方と行動するくらいなら、一人で行動するわよ。
「....」
今のは、本気で落ち込ませてしまったか。
庭の隅で、膝を抱え俯く波之助の姿は、なんか、惨めで虚しかった。
「まあ、なにか頼めそうなことがあったら頼ってあげるわ。感謝しなさいね」
「...あ、うん」
何?他にも用があるの?
私は、これから忙しいの。
用があるなら早めに話してちょうだい。
「いや、特にないさ。じゃあ、僕はこれで帰るね。また来るよ」
もう、来なくてもいいわよ。
そんなことをつぶやいたときには、庭に波之助の姿はなかった。
