「.....、変な話ね」
「でしょ?だから、こうやって私が村まで駆り出されたわけ」
でも、ここに寄ったのはたまたま顔を出しに来たってわけではないのでしょう?
「ん、もう...、貴方って子は、ほんとに鋭いのね」
依頼、ってことでいいのかしら?
だったら、報酬はちゃんと貰うわよ。
ほんとなら、滝酒山なんか、もう二度と登りたくないのよ。
「わかってるわよ。ちゃんと報酬は渡すわ。でも、ちゃんと事件を解明できた後にね」
「いいわ。でも、少し掛かるかも知れないわね」
「何故?」
「これでも、客が絶えない便利屋なのよ。だから、姉様の依頼と同時にこなしていかないと」
お金がなくて、生活できないのよ。
姉様は苦笑を浮かべながら、かぶりを振る私を一瞥し、茶を飲み干す。
そして、茶飲みを置いた。
「今日は、泊まっていってもよろしいかしら?」
「えぇ。構わないわ」
丁度、人肌恋しくてね。
いつも一緒に寝てる人も今日はいないし。
「あら、貴方。波之助さんと寝てるの?」
「え、あ...、まあね」
姉様は、私と波之助がちゃんと交際していると思っている。
つまり、私と辻が恋人ってことを知らない。
昔から、村の規律に固く厳しい人だから、このことを知ったら妹の私でも、村長に突き出される。
「そう。なら、いいのよ」
「...、布団、敷いてくる」
姉様の前で嘘をつくのは、難しい。
姉様は、話している相手の視線や仕草だけで、どんなことを考えているのか、すぐにわかってしまうのだ。
今のは、危なかった。
こんなに動揺したのは、いつ以来かしら。
どんな時でも平常心でいなければ、辻を守ることなんてできない。
月明かりに照らされた廊下を歩き、寝室へと向かう。
いつもならこの時間、辻と寝室で騒いでいる。
時には酒を呑み、時には互いに同じ布団に入りながら、たわいもない話をするのがとても楽しくて、私の癒しだ。
でも、辻と二人だと癒される空間も、私一人だと何処か広く、まるで、私以外この世にいないのではないかと思えてしまうくらい、それくらい孤独を感じてしまう、そんな空間。
「はぁ...」
二人分の布団を敷きながら溜息がこぼれる。
この部屋に私一人。
辻の顔が頭に浮かぶ。
会いたくて会いたくて、仕方がないくらい。
いっそ、辻と二人でこの村を出ていけたらいいのに。
「ふぁ...、凪...。私もう眠いから早くして...」
「あっ、もう...、勝手に入ってこないでよ...。敷けたから、どうぞ」
普段、辻が使っている布団を私が使い、私が使っている布団を姉様に。
いくら姉様でも、辻が使っている布団に寝てほしくはない。
姉様に使われるくらいなら、私が使う。
「んー...、凪、おやすみ」
気づくと姉様は、既に布団に入り込み、瞳を閉じていた。
ほんと、勝手な人ね。
さて、と。
私もそろそろ眠らなきゃ。
明日も、仕事だ。
姉と同じく、私も布団へ入り、静かな眠りについた。