鞄の中で何度か携帯が震えても、お母さん達の呼ぶ声が聞こえても、ひたすらシカトした。応える気分になんてなれなかった。あいつの一言で地獄に落ちた心地を味わっている自分に気付いて、そんなに好きだったのかと改めて痛感する。



「……見てるだけ、で良かったな……」



 接点なんて、いっそのことなければ良かった。同じクラスにならなきゃ良かった。さかのぼれば……部活で怪我をしたあいつに、ハンカチを渡さなければ良かったんだ。

 成り行きで保健室に付き添ってやって、消毒液の場所は分かっても包帯の居場所が突き止められなかったあたし。奴の傷口を消毒してやった後、自分の青いハンカチを包帯代わりにしてやったのだ。あいつは「そんな綺麗なハンカチ勿体ないよ!」と言っていたけど、あたしには目の前の怪我人の方が大事で。そんなあたしに奴は、「ありがとう!」と言って眩しい笑顔を向けてくれたんだ。

 ──あの時、かもしれないな。竹田を好きになったのは。それからは何度となくこっそり練習風景を見ていたけど、案外ドジなところもツボにハマった。それでいて、キメる時はキメる奴なんだと分かったらもう抜け出せなくて。本物の恋だったんだと、実感した。