ﾁｬﾌﾟﾀｰ76
「東京」

街を歩く二人。出会った頃の二人と比べれば、無駄なものが削ぎ落とされ、随分と洗練されたようにも見える。二人はきっと寄り添いながら成長していた。
気が付けば、いつの間にか成長することを止め、恋することも忘れて、当たり前の現実に意味のない言葉を重ねる日々に疑問も抱かなくなってしまう。
　しんどいんだよね、アレコレ考えるのは…食べる為に金を稼ぎ、性欲と食欲に翻弄されながら、疲れたら眠るっきゃないじゃん、明日は死ぬまでの暇潰し。仕事の前に一服するのと同じことでしょ！
幸せな二人に、暗い影が近付いている。
　あの日、林檎を実家まで車で送った新也が、街を歩く林檎を見付ける。新也は林檎のあとをつけながら、声をかけるタイミングを見計らっていた。
新也「林檎ちゃん？」
少し大きなその声に、周りの人達も反応する。
林檎「あー！」
新也「林檎ちゃんだよね」
新也は林檎を実家に送る際、福生の事は聞いていたが、そばの福生を敢えて無視するように林檎の顔を見つめる。
　林檎は福生に「こないだ、実家まで送ってくれた人」
福生は新也にお辞儀する。
新也「どうも、体の調子どぉですか？」
福生「…」
林檎「福生のこと少し話してるから、事情少し知ってるの、村上さんてゆーんだ」
福生「あ、なんかいろいろお世話になったみたいで、ありがとうございました。体は少しよくなりました」
新也「そぉですか、それはよかった」
三人は場所を移し、ひとり一人が少しだけ心を開きながら、少し長い時間を共に過ごす。気が付けば、三人は新也の部屋に足を運んでいた。