七色の空

チャプター57〜つづき

林檎はスプリンター型の走方で、アパートまでの中間距離を駆け抜ける。スプリンター型の走方は長い距離には向かない。筋肉にかける負担が大きいからだ。ブラジャーが透ける程の汗をかき、パンティーを履いていない下半身の風通しは申し分ない。
世の中ではDoCoMoの905iシリーズが飛ぶように売れているそうだ。林檎は福生とペアでF705iを持ちたい、走りながらそんなことを考えていた。福生がウチで待っていたら、明日は福生を連れて、機種変をしに街へ出ることに決めた。一日だけなら病院も許可してくれるに違いない。
しかし、肝心の福生はバスの中にいる。林檎のスピードのはるかに速い乗り物に運ばれて、二人の距離は離れていくばかりだった…。


チャプター58
「サニーデーサービス」

福生に会えなかった夜、独りで眠る部屋を、林檎はいつもより広く感じた。人が誰かと共に生活している時、相手が部屋の中で占めているのは肉体の体積だけではない。存在は空気を伝って空間を占め、お互いの占めている空間の交わる部分が広ければ広い程、相手を失った時の喪失感も大きいのだろう。共有部分は本来自分が占めている部分でもあるのだが、依存が自分自身すら削りとるのだ。
林檎は孤独に生きて行ける人種ではない。AV女優を夢見ていることが何よりの証拠である。それは林檎のとても素敵なところ。
林檎と福生は人種が違う。違う者同士が偶然によって少しだけ互いの人生に関与しただけのこと。福生が願っていたのは、この先、自分が林檎の生活に関与しないこと。林檎の優しさを無視した勝手な考え方かも知れない。だが、福生が望んだのはそういうことである。林檎はこれからもまだ長い時間を生きる。林檎は自らの為にこそ、時間を無駄にしてはならない。
人間臭い関係性や心と心のやりとりは、この時の福生にはもぉこりごりだった。バスの揺れ方で人生の意味が分かる。福生が夜行バスに揺られながら考えていたことは過去ではなく、未来のことだった。
バスが10時間近く走った頃、夜が明け始める。
今日もまた晴天の夏日になりそうだ。