七色の空

チャプター3
「早朝の河童」

次に静かな早朝の空に木霊したのは林檎の雄叫びだった。
「ジタバタしてんじゃねェーッ」
この言葉と同時に林檎の平手打ちが福生の左頬をクリーンヒットする。林檎が水中から福生をかかえて水面に何とか顔をだすが、溺れてパニックになっている福生は林檎にしがみつくものだから、林檎もろとも水中に引きずり込まれてしまう。訓練を受けたライフセイバーでも溺れた人間を救いだすのは至難の業である。この時の林檎は神がかり的な身体能力を発揮し、もはやこれまでかと上空のカラスが背を向けた直後、水面に再び顔を出した林檎は、混乱する福生に愛の平手打ちを繰り出した!一瞬我に還った福生にかんぱつ入れずに林檎はこぉ続ける。先程より優しい口調で、
「無駄な力いれんじゃねーよ、浮力に逆らわないで」 親にも殴られたことない福生は呆気にとられ、自分の瞳に全エネルギーを注ぎ込んでくる林檎の澄んだ強い瞳に釘付けとなり、林檎はさらに優しい口調でこぉ続ける、
「そぉ私を浮輪だとおもって身を預けて、体に力を入れなければ貴方の体は浮き上がってくるから」 見事な救出劇である。死ぬはずだった人間が溺死するはずだった人間を救い、二人が無事生還したのだ。こんなニュースがお昼のNHKで流れれば、いつも冷静なNHKのアナウンサーでもさすがにテンション上げアゲで取り乱し兼ねない!岸にあがった林檎は草むらに仰向けになり、まだぼんやり空に残る、消えかけの月を見上げる。福生は岸のテトラポットにしがみつき川につかったままでいる。
林檎「何でつかってんの?早くあがってきなよ」 福生は返事せずに何度か岸に這上がろうとするが水中で散々もがいた後では腕の力だけでテトラポットの段差を乗り越えられないようだ。虚しくまた肩まで水につかってしまう。その姿は早朝、川から顔を覗かせる河童のようである。