チャプター21
「招かざる客」

昼の1時過ぎ 福生の部屋には今、誰もいない。福生は打合せの為、外出しているのだ。
林檎はまだ自分の部屋で眠っている。普段、朝早く出掛け、福生の部屋に向かう林檎にとって、この時間まで眠っていることは珍しい。福生の作業は早朝から始まる。朝の方が仕事の効率が良いからだ。林檎は文句いわずに付き合った。
実は林檎が眠っている間、招かざる客の訪問があった。林檎のセフレ、健である。林檎に痴漢した男の電話にでた人物だ。健は林檎のことを彼女だと勘違いしているので、林檎と連絡のとれなくなったこのひと月あまり、林檎をやっきになって探していたのである。 林檎は福生に出会ってから、健をないがしろにしていた。
林檎は17時頃には部屋をでて、福生のウチへ向かう。夕方、仕事を終えて福生が帰ってくる。料理を作って待っているつもりでいた。
福生は今日、すでに始まった撮影のラッシュ試写の為、スタジオに出向いている。実は林檎も誘われたが、林檎は完成して劇場で一般公開されるまで観るのを控えると丁重にお断わりしていた。なかなか粋なこだわりである。
林檎が福生の部屋につくと、食材を冷蔵庫にしまう間もなく、呼び出しベルが鳴る。
 扉を開けると目の前には健が立っている。林檎は反射的に扉を閉めようとしたが、健の足が割って入る。