七色の空

「愛してるの響きだけで強くなれる気がしたよ〜つづき」

福生はまだ病気のことを林檎には伝えていなかった。表面上は健全な障害者。しかし、障害より重い病を体のなかに抱えていた。外からは誰にも分からない、いまのところは…。
福生は通院のことも林檎には内緒にしていた。その日、福生が診察の為、外出している間、林檎は福生の部屋で、仕事書類の整理と掃除をしていた。福生は林檎に見られて困るものなどない。始めて林檎が部屋を訪れた時に隠したオムツも、今ではタンスから出して置いてある。オムツ姿を林檎に見せたこともある。林檎が冗談で「私にもオムツつけて」と、言った時には、照れてせっかくのチャンスを逃してしまった。私、作者も、過去の話になるが、彼女が風邪で寝込んでいる時、彼女の生理用品を取り替えた事があるが、嫌いではない。 その時、福生が「うん」といえば、林檎は本当にオムツを付けてもらう気でいたのだ。
林檎は掃除しながら本棚の書物に脱線しはじめると棚の奥から隠すように置いてあるクリアケースを見付ける。
病院の診察室では、淳の入れた珈琲を二人で飲みながら、会話が交されている。診察室という場所では、通常考えられない光景である。 福生は、いつか映画を撮りたいと、淳にそんな話をしている。
淳「こんなこと、医者が患者に言っていいことか正直不安だけど、あの世で君が素敵な映画つくってると思うと、僕もあっちに逝くことが悲しい事ばかりでもなくなる気がするんだよ。あの世に行く楽しみの一つとしてとっておきたいと思ってるんだけど(笑)」
福生「任せて下さい。あっちでつくって待ってますから。死が近付けば近づく程、心が安らかになっていくのは素晴らしい主治医のおかげですね(笑)」
人間は何でも笑ってやりすごせる。死ねば何もかもなくなって、またあっちでくだらない人生が一からスタートするのだから。
林檎がクリアケースから取り出した、黄色く変色してしまっている原稿。その表紙にはこう書かれている。
「死ぬまでにしたい7のこと」。