七色の空

チャプター88
「はッぴぃエンド」
〜あとがき?
どうしたってダメなのさ 胸がキュンとしちゃうんだもん
いつか いつか また
あなたに会えますように
寝台列車の中で福生が脚本の裏表紙の裏にそっと書いた詩である。
福生の描いた『はッぴぃエンド』と林檎によって変貌をとげたそれの生まれ代わり『ジーンリング』。この2つの物語を紹介している間も、林檎に連れられて福生は寝台列車に揺られ映画祭の開催地に近づいてゆく。
『はッぴぃエンド』はあとがき程度に残り紹介をして忘れてしまおう。
この物語の前半、少女は目的に向かって真っ直ぐに突き進んでゆくのだが、お腹にいた亡き赤ん坊の父親に再会した折、その男の家庭と直面することになる。 少女は男の家庭を崩壊させる為に遥々、東京から大阪へ出向いたのだ。それまで用意周到に計画を練り、一切の妥協を赦さず、完璧にシナリオ通り事を進めてきた。しかし、自分の感情といったシナリオの根幹とも云えるソレが大きく揺らぐ事を少女自身が不覚にも読みきれなかった。
愛した男とその家族を目の前にして少女が抱いた感情は…?
それは、永い間、真空の中に閉じ込められていた末にようやく空気が吹き込み、肺で呼吸を始め、全身の血液に酸素が送りこまれるような、そんな感情。少女は空気のない世界に居座り、そこで生きていけるように全てを偽りに変えた。
彼女は分かってしまっただけだ。自分で自分を騙していることに。
誰しも自分を騙しきることだけは出来ない。自分とは自分にとって最も残酷な存在である。しかも、その事実を受け入れたところで、その残酷さは一生身に付きまとい、心を傷つける。 少女はまた振り出しにもどった。目的のない人生は苦痛だ。この時の少女にとって、例えば特効薬になるものとは何だろう?この疑問は、物語を執筆する福生にとっても、ストーリーを展開する上で重要な課題であることに他ならない。
福生はその答えを容易に紙の上へ提示する。
それは、死だ。『はッぴぃエンド』の主人公である少女は物語半ばで姿を消す。知らない男の間に子供をもうけ、その子供を出産してから捨て、すぐその後、身を投げる。