「はぁ……。なにが悪いんだろう」

報告書の書き直しがうまくいかなくて、イライラも増してくる。

この報告書は、来年の職務転換に必要だから、絶対に部長に認められなくてはいけない。

だからこうやって、今夜も残業をしているけど……。

誰もいなくなったオフィスで、深いため息をつきながらパソコンを睨みつける。

「もう、どこを修正すればいいのか、分からなくなってきた」

「あんまり無理するなよ、梓。少し休憩しよう」

どこから、それもいつの間にやってきたのか、三日前に現れた『指サックの王子様』が目の前に立っていた。

服装はこの間と同じで、ニヤッとしながら私を見下ろしている。

「あ、あなた……。またやって来たの⁉︎ 」

驚きとともに、ついデスクに目が向いてしまう。

すると、パソコンの側に置いておいたはずの指サックが、なくなっていることに気づいた。

動揺する私を尻目に、指サックの王子様はイスを持ってきて私の隣に座る。

「梓ってば、ちっともオレを呼んでくれないんだもんな。自分でやってきたよ」