真夜中の12時の鐘が不気味に鳴り響いた夜。
洋館の扉が、ギィッ…っと音を立てて開かれ、中から細い手が外に向けて伸ばされた。

『……《ライト》』

ポっと手のひらに光が灯り、中から一人の少女が顔を出した。
光に照らされ、紺色のベリーショートの髪と水色の猫目がはっきりと映し出される。

彼女はレン。この洋館に住まう住人だ。
暗闇でもキラキラと光るその瞳は、どこか夜行性の小さな哺乳類を彷彿とさせた。

「…レン。」

彼女しかいないはずの丘から声をかけられ、レンはゆっくりと三階のバルコニーを振り返った。

『……あ、アキ兄さん…。あはは…。』

「……お前は、何度言えば夜中の外出は禁止だとわかるんだ？」

月を背負って立つアキの言葉に、レンは苦笑いしながら後ずさる。途端、パッときびすを返すと下町に向けて走り出した。

「待て！レン！」

アキは矢に魔法をかけて放つが、レンはそのすべてを避け、呪文を言い放った。

『《ゲート》！』

パッと一瞬の強い光に目がくらむ。
アキが目を開いた時には、レンはもういなかった。

「くそっ！あのバカ妹が！」

アキはガシガシと頭をかくと、イラついた表情で屋敷の中に戻っていった。