「こないださぁ、彼氏が泊まりに来てさぁ。片付けてないから嫌だって言ったのに『俺は寝れたらいいから。』とか言うの!最低かって笑っちゃった。」「えー、まじでー?やば、ケモノじゃん。」「でも、ワイルド系でいいよねー。」同じクラスの女子が甲高い声で話している。高校卒業後、看護師を目指して入学した学校で、私は戸惑っていた。

今年18歳になる私だが、こういった知識がほぼない。中学時代に彼氏がいたことはある。しかし、手をつなぎ家まで送ってくれるぐらいの関係だった。中学卒業前に記念だからと初めてキスをした。容姿は人に褒められることが多いし男友達も多い。そう自分では思っていた。この卒業前のキスをするまでは…。私がファーストキスを捧げた彼氏には次の日に振られた。『進学する学校違うし、ハルとは終わりにしたいんだ。』簡単な言葉だった。なぜキスをしたのか怖くて聞けなかった。たくさんいたはずの男友達からは『あいつとチューしたんだって?あーぁ、俺はキスしないまま卒業に賭けてたんだよなぁ…意外とガードはやわかったのか。あいつの総取りじゃん。』と少し苛立ちを見せながら笑われた。最初はわけがわからなかったが、後に私のファーストキスは男友達と思っていたやつらのゲームに賭けられていたと知った。こんなわけで私は恋愛から遠ざかっていたのだ。
しかし、年頃というのは怖いもので周囲を見渡せばラブストーリーが生き物のように蠢いている。18歳になって周りの話についていけない辛さを知った。高校時代は進学校だったためか、付き合う友達が同じような類だったのか恋愛という言葉に縁がなかった。しかし、恋愛がなくても青春というのはできて楽しく過ごしていた。看護学校に入学後、初めて退屈な人生なのかもしれないと感じた。

(つまんないなぁ…)という心の声を飲み込み甲高い話し声を聞いていた時、この学校では数少ない男子に話しかけられた。クラスで悪い意味で目立つ3人組だった。細身で見る角度によってはイケメンとも言えそうな男が「俺、木下リュウ!ハルちゃんって名前名簿で見てたんだ!名前見て絶対可愛いと思ったんだよねー!」と軽い雰囲気を醸し出し私の隣の席に座った。(なんなんだ、こいつは…いかにもチャラいですみたいな雰囲気出てる。危険だ。)と喉まで出かかった言葉を飲み込み、同時に挨拶の言葉も飲み込んでしまったため無言で彼を見つめる形になった。すると、リュウの隣にいた少し肉付きのよい温厚そうな顔つきの男が「リュウのせいでハルちゃん固まってるよ。ごめんね。はじめましてなのにびっくりしたよね。僕、野村セイヤ。よろしくね。」と優しい笑顔で微笑んできた。「リュウって人と印象違いすぎてびっくりなんだけど…。」しまった!と気付いた時には遅かった。心の声が出てしまっていた。2人は特に気分を害することがなかったのか笑っていたので、ホッとしていると3人目が口を開いた。「意外とズバッと言うんだ。リュウが興味もつのわかるわ。」とほぼ無表情の整った顔でこちらを見ている。彼のことは知っていた。クラスメイトの女子が噂していた。ワイルド系の整った顔立ちに寡黙な雰囲気がいいのだとか。「確か…久保タカシくんだよね?」と言うと少し驚いた顔をして「知ってたんだ…てか、男もちゃんと見えてるんだ。」と失礼な発言をいただいた。確かに男子との交流は入学して3ヶ月なかったが、そんなふうに思われているとは。(これだから男子は嫌なんだ。)とこの時は思っていた。この3人組が私が生きた短い人生でかけがえのないものになるとは、この時は知るはずもない。