その夜

目が覚めた時の為に、付き添いをした


病院を拒んでいる2人だから

逃げ出し兼ねない


「伊緒里 少し休んでこい」


朔哉と2人で交代する

母さんと誠実さんには、帰って貰った



「ちょっと風に当たってくる」

「ん」



心配で、ちっとも眠くない
ただ、不安でたまらない


病室に戻ると、朔哉が花菜の手を握って
祈っていた


花菜は、朔哉の妹

俺の妹、亜依里は、死んだ


いつか……



花菜を朔哉に返さなきゃいけないのかな


俺は、花菜が好きだ


だけど…


花菜は、誠実さんの息子と付き合ってたんじゃないかと、密かに思っている


だから、肝心な1歩を踏み出せないでいる


「朔哉…俺…花菜が好きだ」

「……それ、俺に言われても……」

「だな」

「ふっ 伊緒里なら、義弟にしてやってもいいぞ!」

「げっ お前が義兄かよ」

「そういうことだろ?
結婚前提の真面目な奴じゃないと、花菜はやらねぇ!」

「ごめん……キスした」

「……複雑」

「ごめん…」

「俺らって、妹離れしねぇのな
妹らは、兄離れしたのに……ははっ
伊緒里と友達になってよかった!」

「俺も、朔哉と友達になって、よかった」





花菜が目を覚ましたのは、翌朝



「なんで、病院なの!?帰る!!」

点滴を外して、服を棚から出す

「帰るのは、いいけど精算しないとな?
会計があくのが9時だから、待て!」

「着替えるから、出てて」

9時きっかりに回診も受けず下に降り

支払いをした



保険証やらいると思って、花菜のカバンを
持ってきていたので

バイト代で支払いを済ませた


「また無駄使いしちゃったじゃない!!」


「無駄って……皆、心配したんだぞ!!」


「伊緒里!!ごめん!!花菜謝れ!!
徹夜で、付き添ってくれたんだぞ!!」

「伊緒里が心配なのは、亜依里でしょ?
なんで、あたしが謝るの」

病院の外で、睨み合いになる花菜と俺

「伊緒里も落ち着け!花菜ちょっとアホなんだ!ごめん!!」

「朔哉にアホとか言われたくない!!」


怒りの矛先が朔哉に向かったが


「花菜!!なんで、生きようとしないんだ!
体の為に使ったら無駄なのか?
苦しいのに我慢して、倒れて
皆に心配かけて、何がしたいんだよ!」

「亜依里さえいたらいいんでしょ
だから、亜依里にあげるって言ってるのに
亜依里ったら……」

「花菜?」


花菜が踞った


「大丈夫か?」

胃潰瘍の薬も貰わず出てきたから

「診て貰おう!!な!?」

「嫌」

「花菜!!」

明らかに、顔色が悪く

胃の辺りを押さえている


「意地張るなよ!俺らが一緒にいてやるから
行くぞ!!」

「や!!」


俺の手を花菜が振り払った


パシーーーン



「伊緒里が、どれだけ花菜を心配したと思ってんだよ!!我慢して良くなるのか?
薬飲んでたら、治るんだ!
ほっといたら、また手術だぞ!!」


朔哉が… 花菜を叩いた



花菜が立ち上がる

「それでも……病院は、やだ」



それだけ言って、花菜が俺らに背を向けた






追いかける気力とか、どんな言葉で説得すればいいのか

徹夜明けの俺らには、わからなかった


2人で花菜の背中を見続けた