教室前の廊下は、これから帰宅する生徒や、部活に行く生徒たちで混雑している状態だ。
その中を水橋さんは凄いスピードで俺を引っ張って行く…
セミロングの黒くて艶のある髪の毛を揺らしながら…
「ちょ、ちょっと!!水橋さん!?どこに行くの?!」
俺は千鳥足でバランスを取りながら水橋さんに叫んだ
「………。」
水橋さんは俺の問い掛けにも応じず、シャンプーの良い匂いを漂わせながら、廊下を突き進んで行く。
『おい…アレ、月見と水橋じゃねぇ?』
『あっ本当だ…』
俺と水橋さんがセットで廊下を走っていれば、生徒たちにコソコソと何かを言われるのも仕方ないだろう。
俺は何となく手で顔を隠しながら走った。そして水橋さんは階段を駆け上がって行く。
水橋さんは階段で少し、つまずきそうになったが、気にせず走り続けた。
(このまま進むと、音楽室に行くんじゃないのか?)
今日は吹奏楽部が休みなので音楽室には誰もいないはずだ。
そして…水橋さんは音楽室の前で走るのを止めた。
「入って…誰もいないから。」
水橋さんは大きく優しい瞳で、俺の小さく悲しい目を見た
「あっ…うん」
俺は少し震えながら音楽室のドアを開けて中に入る。
