ここは三温堂。しがない古本屋である。
私はここで働き始めて、1カ月近くになる新人のバイト店員だ。
三温堂は店長、店長のご子息、私の三人で営んでいる。
ちょうど一週間前、店長の佐藤さんが病気をして入院した。
命に別状はないようだったのだが、ご子息と私の2人だけは、どうも働きづらいところがある。
働きづらいことに関しては、それなりの理由があって……
「キ~キ~ちゃんっ」
「ぅわ、ジュニア!い、いきなり後ろから抱きつかないでくださいっ」
今私の背中と一つになっているのは、三温堂の息子、佐藤 レン。その人である。
元々、店長(佐藤さん)が彼のことを「ジュニア」と呼んでいて、ジュニア本人からもそう呼んでくれと言われたので、彼(佐藤レン)のことはジュニアと呼ばせてもらっている。
私は別に彼のことが嫌いなわけではない。
ただ、苦手なのだ。
「ふふふ‥‥。そんな怖がんなくて良いよ」「いつもの事じゃん♪」
…苦手、だ。
「ねーねー?シようよぉ~。せっかく親父いないんだからぁ」
「嫌です!」
「つれないなぁ?ノリノリな時はOKしてくれんのにぃ」
「…っうるさいですよ!?いいですか、ジュニア。あなたは早く彼女を作るべきです!」
「だからぁ。それについてはいっつも告ってるじゃぁん、君にー」
「私もそれについてはいつも言っているはずです。ふざけないでくださいと。」
確かに、私とジュニアは何度か関係を持った事がある。
お互い独身で………大人の都合(?)という奴だ。
なんて…
そんなの、ただの(最低最悪な)口実であるのだが。
普通は今起こっていることに口実をつけたくなるところだが、私は違う。
彼が好きなのだ。
一見軽い奴だが、誠実な彼が。
彼もおふざけ半分にでも私のことを好きだといってくれている。
いっそのことひと思いに「私も好き」と言ってしまいたい。
しかし、この心こそ罪深いのである。
夢をあきらめた人間が、希望をなくした人間が、夢に向かって働いている人間に恋する資格なんてないのだ。
夢に手が届きそうだったのに手放した私は…なおさらか。
こんな葛藤、私の勝手な持論からなるものであって、本来はそうでないのかもしれない。
もしかしたら、許されることなのかもしれない。
けど
私は頑固だから
意見を
変えられないの。