以前言ったように、僕は本が好きだ。かなり好きだ。
本は僕をいろんな場所へといざなってくれるし、新しい出会いも与えてくれる。
ただ、僕は今浮気している。
本という愛おしい存在をも遥かにしのぐ美しさを兼ね備えた女性に浮気している。
今日も幸福の海に浸かるべく、三温堂に足を運ぶ。
期待を一心に込めて(気に入った本に出会えるか、はたまたあの女性との進展があったらな、などという浅はかな期待のことである)ノブを引いたせいで、いつもより威勢良くブリキのベルが鳴った。
彼女はやはりいつもの顔をしてレジに居座っていた。
少しこちらを見つめられたかと思ったのだがそんなはずはなかった。
ああ、いかん。完全に末期ではないか。
都合のいい妄想と現実との区別が付かなくなるなんて。
恋愛というものは常に清純であるべきなのだ。
まだ実ってもいない恋に妄想をするなど、不純もいいところだ。
えーい、邪念よ、出て行ってくれ…
「…いらっしゃい………。」
僕が店内に入ってほんの少ししてから(といっても、入って1、2秒の話である)彼女は僕にマニュアルどうりの挨拶をしてくれた。
「どうも。新しく入った本はありますか?」
「いえ、ここ最近はあまりないんです…」
申しわけなさそうに微笑む彼女は涙が出てくるほど美しかった。
「そうですか、ありがとうございます。」
「いえ。ごゆっくり。」
僕は毎回くるたびに本を買っていってるわけではない。
はやりの本を安く買うために古本屋に来ているのでもなく、新しい本に出会うためにあえてここにきている。
古本屋にはいってくる本はジャンルが様々なので、何回か足を運んだ後、一冊の本を買うのだ。