私は町の小さな古本屋「三温堂」で働かせてもらっている。



バイトだし、元々古本屋で働きたいと思っていたわけではない。



しかし本が嫌いというわけでもない(むしろ好きなほうである)私に、この職場はもってこいだった。



三温堂は小さいが、常連客なるものは数人いて



バイトを始めた当初は、店長に常連客すべての名前を覚えなさい、と言われてひどく困惑したものだった。



今ではすっかり仕事にも慣れて、常連客の名前も顔も完璧に覚えている。



というのも、常連客は本当に常連さんであって(?)、多い人は来店率脅威の週3ペースだったので、案外すぐに覚えられてしまった。



カルルルン……



不意に三温堂の入り口があいた。




(三温堂の出入り口ドアには小さなベルが取り付けられているのだが、これがまた古い。新しいものに変えればいいものの、今ではすっかりくたびれたブリキの音だ。)




白のインナーに襟元のよれたグレーのVネックのシャツ、ジーンズに黒縁めがね…



牧野 駿か。



見たところ二十代後半にさしかかったところだろうか。



彼こそが尊敬すべき、週3の怪物常連客である。



そんな年でなにが悲しくてこんな古本屋に通っているのだろうか?



疑問を持った回数を思い出そうとするときりがない。



それほど不思議な人物、ということだ。




おそらくはそれほど本が好き、あるいは本の他に何か目的があるか、だ。