「どうしてあんなことしたの?」
彼は酷い男だ。理由なんて聞かなくても、解っているくせに。そして、私がその理由を言えないと知っているくせに。
「・・・・ただ、手が滑っただけ」
そう言えば、彼はまた静かに笑った。
「笑うなら、もう戻りなよ」
そう言った私の言葉に彼は少しの間の後、”そうだね”と一人納得したように言った。
「佐野さんに全部任せちゃ悪いしね、そろそろ行くよ。」
その言葉と共に、彼は私に背を向け歩き出した。
佐野さん、それはあの女で、また彼はあの女のところへ行くということ。
私は無意識のうちに彼のシャツを掴んでいた。引っ張られて、振り向いた彼は”なに?”と意地悪く言うのだ。
それから、彼の視線が私の手へと向いた。
「血、さっき切れたのか・・・」
そう呟いた彼は、そのまま私の手を自身の口許へと持っていき、今しがた血の出る私の指を舐めたのだ。それだけでなく、彼は私の指を咥えたのだ。生温かく、ざらざらとした感触が指へ伝わり、震えるほどの悦びが全身を駆け巡る。