「お前、あれはナイわ」
ビール片手に駄目出しをするのは、芸人の大先輩、久遠(くどお)さんだ。
月に一度、こうして自宅に後輩を招いて焼肉を食べさせてくれる。
「あのネタな、『歩いて来る人来る人、お年寄りばかりだ』やのに、『少子高齢化で三人に二人はお年寄り』って何やねん。その率から言うたら、歩いてきた三人目はお年寄りちゃうやんけ」
「そこっすか」
郡司が眼鏡をずるっとさせた。
あの公開プロポーズで見事にズッコケた俺は、あれから散々みんなに弄られて、すっかりネタにされている。
盛大に振られたのならともかく、プロポーズネタが通じなかったという滑りっぷり。
「菜々ちゃん、観てなかったんやもんなあ、テレビ。何でやろなあ、郡司ちゃんと伝えたんやろう?」
久遠さんの愛妻、雪美さんが空いた食器を下げに来て、郡司に言った。
「あっ雪美さん。俺がしますから、座っといてください」
雪美さんは妊娠五ヶ月。まだ全然お腹は目立たないけど、いつものようにせかせか動いている雪美さんを見ると、こっちがそわそわしてしまう。
「全然大丈夫矢やで」
「そやそや、運動せな肥えすぎやねん」
久遠さんの言葉に、郡司がすかさず反論した。
「えっ、全然細いですやん。妊婦に見えませんもん」
「せやろ? で、どうするん、とーる。菜々ちゃんへのプロポーズ、仕切り直し」
「ちゃんと考えてますよ」
『とーぐんの透琉、公開プロポーズに失敗』というニュースは世間に流出済。今後どうするのかについては、皆にせっつかれているけれど、今度こそ成功したいと思うからこそ、盛大にしたい。
「誕生日にプロポーズ大作戦、失敗。生放送で公開プロポーズ大作戦、失敗。三度目の正直は、もっと攻めて行きますよ。失敗したから次は守りに入るなんて、ダサイですもん。むしろもっと盛大にします」
「とーるちゃん、かっくいー!」
「何なに、盛大にって。面白そう」
「いいぞいいぞ、盛大にやって盛大に振られろっ!」
計画してるのは、『フラッシュモブ』プロポーズだ。その場に偶然居合わせたと思っていた人たちが、示し合わしてダンスを始めるという、アレ。
最近では一般的にもサプライズ演出の一つとして浸透してきて、フラッシュモブ専門の企画会社もあるくらいだ。
「ダンスの練習、付き合ってくれるなら教えます」
「ダンス? ミュージカルプロポーズでもする気かよ」
「ぷぷっ、図星。コイツ、フラッシュモブするつもりらしいっすよ」
「マジか。それ俺も混ぜろ。雪だるま役で」
「熊役がいいんじゃないっすか?」
「ポーさんな、ポーさん。つかネズミーランド総動員して来いよ」
「違う、なんか違う。もっとオシャレな、フランス映画みたいな感じ。俺が思ってるのは」
「はあ? フランス映画あ? とーるが? それはナイわ、ナイ」
「何でですか! 俺、めっちゃトールジェンヌですよ?」
「アホ、ジェンヌは女性だろ」
「男性は、ジャン? とーるジャン」
「透琉じゃんwww」

