ああ、最高に緊張する!
 いよいよ始まった生放送番組。

 長年の人気を誇る長寿バラエティ番組『笑って愛しい人』、通称『ワライト』だ。
 三年前に準レギュラーメンバーの大募集があり、オーディションを経て選ばれた『とーぐん』の俺と郡司。

 というのは建前で、実質は事務所の力でねじ込んでもらった。

 当時の俺は、実力で選ばれたと思っていて、少し天狗になっていた。
 今は事務所の力関係や縦横の繋がりというものの大事さが痛いほど身に沁みている。今日の公開プロポーズも事前にきっちりと社長に話を通して、許可が出るまで根気よく交渉した。

 俺の愛しい人にプロポーズをしようとしたのは、これが初めてじゃない。

 一年前に別れる前、彼女の誕生日にプロポーズするつもりだった。指輪も用意していた。
 だけど当日起こったハプニングで計画はおじゃん。それどころか、その日をきっかけに転がり落ちるように運がなくなった。

 あのときは神に見放されたのかと絶望したけれど、今思えば、あれは神様に喝を入れられたのだと思う。
 少し人気が出ただけで調子に乗って、事務所に話も通さずに彼女にプロポーズしようとしていた俺に。

 あのままトントン拍子に行っていたら、俺はもっと人生を舐めていただろうし。
 この一年、どんな仕事でも有りがたく感謝して、一生懸命やってきた。郡司や周りにも迷惑かけたし、皆の応援に報いたいと思えばこそ。そして何より、この日のために。

 菜々ちゃん、待たせてごめん。

 いや、もしかして待ってないかもしれないけど。
 別れてからこの一年、全く連絡も取らなかった俺だ。とっくに『過去の男』に昇華されていて、いい男と付き合ってるかもな。だって菜々ちゃん、すげー可愛くて性格も最高に良くて、俺には勿体ないくらいイイ女だったから。

 チキンの俺は、今日の生放送を見てほしいと菜々ちゃんに直接言うのが怖くて、郡司にメッセンジャーになってもらった。
 新しい恋人がいるかは聞いて来なくていいとも念押した。
 だって、俺今日のプロポーズのために一年間頑張ってきたし。振られるとしても、プロポーズはさせてほしい。

 例え振られても、テレビでなら笑いに変えられる。ばっかじゃんって爆笑されたら、俺もまだ救われるってもんだし。