三階建て、築三年の小綺麗な白いアパート。

 初めて見たときは粉砂糖をまぶしたケーキのようだと即座に気に入ったものだけれど、最近外壁に汚れが見え始めている私の自宅。

 そして二階にある私の部屋、二〇五号室は階段から見て一番奥の場所にある。

 暖色の蛍光灯に照らされる廊下を眺め、自室の位置を確かめてから、もう一度廊下を見た。


 私の部屋の隣、二〇四号室の前に、スーツ姿の男がひとり倒れている。

 百八十センチぐらいあるんじゃないかと思えるほどの長身に、少しボサついている黒髪。

 灰色のコートを身に着けた背中をこちらに向けながら、ほぼ大の字で転がっている。


 この季節に凍死はない。

 特別出血のような跡もない。

 背中が微かに上下していることから、死んでいるわけではなさそう。

 かといって唸り声もなく、むしろ僅かな寝息だけが聞こえる。


 廊下で寝るだなんて、なんて傍迷惑な人だろう。

 隣人の顔を見たことなど、このアパートに越して来てから約二年、一度も見たことはなかったが。

 まさかこんな人だとは思ってもいなかった。


 ……いや、むしろ、この人は本当に隣人なのか?

 一瞬スルーするという選択肢が脳裏を掠めたが、さすがに見て見ぬふりをすることもできずに隣人(仮)へと近づく。


「もしもし、大丈夫ですか?」


 頭部のあたりに膝を屈めて声をかけ、同時に背中を軽く揺する。

 すると低いうなり声が聞こえ、「……あ?」とどこか間抜けな声が聞こえた。

 そうしてもぞもぞと、頭を抱えながら隣人(仮)が起き上がる。

 その時にアルコールの匂いがして、あ、この人酔っ払いかもと今更なことに気が付いた。