「市口さん、またね」
「あ、うん。バイバイ」
後片付けが終わったあと、笑顔で調理室を後にする織田さんの背中を見送った。
はぁ。
今から武富くんと一緒に帰るんだよね?
2人が一緒にいるところなんて見たくないよ。
そう思うとなかなか帰る気になれなくて、片付けが早めに終わったにも関わらず、結局最終下校ギリギリの時間になってしまった。
夕暮れ時の昇降口にはオレンジ色の陽が射して、空は藍色に染まりつつある。
靴箱からローファーを出して下に置き、そっと足を通した。
「遅すぎ」
え?
どこかから聞こえた声にキョロキョロすると、正面玄関の壁にもたれ掛かる虎ちゃんが見えた。
ギリギリだからなのか、今日も制服をだらしなく着崩している。
「虎ちゃん……」
「ギリギリだぞ、急ごうぜ」
「え?あ、ちょ……」
目の前までやって来た虎ちゃんに腕を掴まれて引っ張られる。
校門が閉まっちゃうから急いでいるんだと思うけど、バスケ部の虎ちゃんは力が強くて遠慮ってものを知らない。
「ちょ、虎ちゃん!痛いよ!そんなに強く引っ張らないで」
「あ、悪い」
抗議すると、手の力が弱まって走るペースを落としてくれた。
「はぁはぁ……乙女は大事に扱わなきゃダメなんだからね」
「はぁ?どこに乙女がいるんだよ」
「ムッ。ここにいますー!」
「はぁ?見えねーよ」
そう言って、イタズラッ子のような笑みを浮かべる虎ちゃん。



