それにしても、お母さんの虎ちゃんの気に入りようといったらすごい。


「お婿さんになってくれないかしら」



なんてうっとりしながら言っちゃってるし、イケメンというだけでポイントが高いらしい。


虎ちゃんも虎ちゃんで、うちのお母さんには猫を被ったようないい子を演じてるもんな。


「咲彩、虎ちゃんならお父さんも許してくれると思うわよ」


「やめてよ〜!ほんとそんなんじゃないんだから」


お母さんをあしらって2階に上がった。


部屋に入って一息つくと、部屋着に着替えてカバンの中から荷物を取り出す。


たくさん作ったお菓子は、虎ちゃんやお母さんという予想外の出費があり残りはたったのひとつだけ。


どうしよう。


うまく作れたわけじゃないけど、本のお礼だって言って武富君に渡してみようか?


でも、いきなり手作りのお菓子を渡したら気持ち悪がられないかな。


手作りが嫌いな人もいるし、そんなに親しくない相手からもらっても困るだけかも。


うーん。


やっぱりやめやめ。


勇気もないしね。


でも、一応持って行っとこうかな。


渡すわけじゃないけど、持って行くだけ。


もし渡せなかったら、叶ちゃんにあげればいいし。



せっかく作ったんだから、どうせなら渡したい。


作る前は渡すなんてありえないって思ってたけど、作っている内に気持ちがどんどん変わった。


虎ちゃんが『美味しい』って言ってくれたことで、自信がついたのもあるんだと思う。


ムリかもしれないけど……チャンスがあったら渡そうかな。


なんて淡い期待を抱きながら、クッキーが入った袋をカバンにしまった。