side:セルリア
あれから随分経って描き終える事が出来た。
随分...いや、少しかもしれない。
矢張りそれなりに時間が経っていた、のかもしれない。
よく解らない。
取り敢えず、絵を描き終える事は出来た。
其れで充分だ。
其れ程の時間が経ったと解れば其れで良い。

絵は如何やって外に持ち出したんだろうか。
嗚呼、如何だったか...。


《頼んだんだろ。なぁ、俺?》

「誰にだ...?」

《親しい奴にさ!秘密を共有出来る奴さ、そうでなければ、俺って事がバレちまう。》

「バレちゃ駄目なのか。」

《俺が嫌がったんだろ。おいおい、しっかりしてくれよ...》

「俺は壊れちまったのか?」

《今更かよ...。ハハハ、笑えるな。
なぁ、俺》

「如何やったら戻れるんだ。
俺は俺なんだろ!!?教えろよ!!」

《五月蝿いな...。数日前は否定してた癖に。》


其の言葉をきっかけに、俺は暴れ出した。
手に届く物は全て投げ付けた。
所構わず殴り付けた。
頭を掻き毟った。
大声を出した。
涙を流した。

如何してこうなったのか解らない。
何故俺だけこうも壊れてしまったのか解らない。
戻れない理由が解らない。
元に戻りたいだけだ。
何時もに成りたいだけだ。
普通に、成りたいだけだ。


「俺は!!俺は戻りたいだけだ!!!元に!!
何で!?何でだ!!!
この声は何だ!!?黙れよ!!!喋んな!!俺はお前らなんか知らねぇッ!!!」

“止めて!!”


暴れている身体が止まる。


“セルリア!!何馬鹿やってるの!?
そんなに傷付けたら死んじゃうよ!!”

「ケビン...?」


不思議と懐かしさを感じる声。
久しぶりに聞いた...。


「“死んじゃうよ”か...。
ハハハ、何馬鹿な事言ってんだ。
俺はもう“死んでんじゃないか”お前らしくないな。
お前は俺より利口だろ。」

“馬鹿ッ!!何でそう考えるの!?
止めてよ、僕、こんなセルリアを、見たくないよ...。”

「俺は馬鹿だよ。んな事知ってる。
泣くなよ...泣いてると“あいつ”にそっくりで、思い出しちまうだろ。
なぁ、〝アリア〟」

“っ...!”


〝アリア〟何年ぶりに呼んだだろうか。
俺の大切な者。
大切な、大切な。唯一“幸せにしたい”と心から思った人。
でも、出来なかった。
死んだ。
俺の所為で...。
いや、誰かが、誰かが...。
誰かの所為で...。
“あいつ”も俺も死んだんだ。
だから、俺は殺したくて、殺したくて...。


《待て...なぁ、俺?
まだだ。今動いても仕方が無いだろ?
嗚呼、俺は馬鹿だな。なぁ、俺。》


また、声がする。


《仕方無いわ。だって出来損ないなんですもの。
出来損ないは出来損ないの事しか出来ないのね。
あぁ可哀想、あたしに似たのかしらね。
“あの人”とは見た目くらいしか似てないもの。》

「もう一度殺されてぇーのか。
手前ェはよう...。何度だって殺ってやるぜ。」

“待って!セルリア!!落ち着いて!”

《野蛮なゴミクズッ!!!あんたなんて死んじまえ!!
自分に価値があると思ってんのかい!?
勘違いも甚だしい!!!死んじまえ!!化け物!!!》

「死ぬのは手前ェだろッ!!!!」

《なぁ、落ち着けよ俺。
死んだゴミクズ相手にカッカすんじゃねぇーよ。反抗期か?
なぁ、俺。》

“セルリア、誰と話してるの?此処には誰も居ないでしょ!”

《死んじまえ!!死んじまえ!ゴミがぁッ!!》


うるせぇ...。誰も居ない。
居るじゃねぇーか。
こんなに沢山。


「うるせぇ!!!手前ェ等は黙ってろッ!!!!!」


しんと静まり返る。
さっきまでの五月蝿さが嘘のように静かになった。


「嗚呼、やっと1人になれたな。
あの女も“俺”も居ない。」


辺りを見回す。
誰も居ない。
そう言えばケビンがおかしな事を言っていたな。
“この部屋には誰も居ない”だったっけか。
あんなに五月蝿かったのに変な事言うんだな。