第2巻 Sicario〜哀しみに囚われた殺人鬼達〜


目の前には...此処に現れる予定の無い男が居る。
見開かれた瞳に、異常な程に荒い息。
いくら僕の前にルルが居たからと言って、僕が見えなかった訳では無い筈。
ルルはかなり小柄だ。僕を隠せる訳無い。

ルルの目の前に立ち、セルリアを見据える。
話せる状態とは思えないが、やるだけやってみるか。
全くあの愚弟は何をしているんだ。唯の監視一つも出来ないのか...。
よりによってセルリアを...


「セルリア!!僕だよ!!!ギフトさ!!解るかい?」

「黙れ...」

「セルリア...」

「黙れ...!」


ワントーン声を低くする。
表情も消した。
僕は僕を演じる事を止めた。


「セルリア」

「俺の知った奴の声で喋んじゃねぇーッ!!!!」


けたたましい声を上げた後、セルリアは獣の様な鋭い眼光で僕を見つめ


「...化け物がッ!!」


と、言った。


「おや...随分な事言ってくれるじゃないか。
冷たいね〜...」


背後に居るルルから拳銃を奪いセルリアの足元に撃った。
僕が突然拳銃を奪おうとした事に驚いたのか、中々拳銃を手放してはくれなかった。
おかげで照準もブレて、脚を狙う事が出来なかった。
威嚇射撃にもなりはしない。


「殺してやるッ!!!」


1歩で間合いを詰め、何処からか取り出したナイフで僕の心臓を狙ってきた。
1歩でよくもまぁこの距離を詰められるものだ。
末恐ろしい...。生きてたら僕と同年代だと言うのに、僕とセルリアに何の違いがあるって言うんだ。
嗚呼、世界は不平等だ。
......嘆いている暇無いか。


「ちゃんと離してくれよ!!」

「無理言うな!!アンタが勝手にした事だろう!!!」


ルルが僕を瞬時に突き飛ばし左腕の義手でナイフを受け止めた。小柄なルルがセルリアの力に耐えれる筈も無く押し負けてしまった。
僕にナイフは当たらなかったが、標的が僕からルルに変わってしまったならルルが殺される...。
幾ら傭兵とは言え相手は現殺し屋で何百人も殺し回った殺人鬼だ...嫌な実戦経験が多いのは其の殺人鬼の方。


「ルルッ!!!!大丈夫!!?」

「言葉掛けてる暇があるなら早く此奴を落とせッ!!!」

「解ってるよッ!!!五月蝿いなッ!!!!」


焦る僕を余所にセルリアの動きは止まっていた。電池が切れた時計の様にピタリと止まって動かない。
暫し僕達の間に静止した時間が流れた。


「アリア...?」


絞り出した様な掠れたか細い声でそう言ったのが聞こえた。セルリアの声だと理解するのに時間は要らない。
僕からはセルリアの背中しか見えない。だが辛うじてルルの顔が見える。
セルリアは壊れ物を扱うかの様にルルの頬に手を添えた。今気付いたがセルリアの手は血で汚れていた。ルルの頬に緋い血が滴る。
ルルも動かない。いや、もしかしたら動けないのかもしれない。
残念ながら僕には知り得ない事だ。