マフィアのボスの娘を連れるなんて、万が一怪我でもさせたらボクが危うい。
最悪の場合兄さんの信頼を失う事になる可能性がある。

キャタナインは立ち上がるボクの腕を掴んで、連れて行くよう言ってくる。


「本当に無理だって!お嬢さんが怪我したら大変だから!!」

「ラーベストさんが守ってくれれば良いじゃない!」

「そう言う問題じゃなくて...」


絶対セルリアの所に連れて行ったら怪我をする。
何せセルリアは『Sicario』の中で、切り込み隊長みたいな存在だ。
そんなセルリアが精神を不安定にしている状態なのだ。
ボスの娘とは言え、無事で居られる可能性は保証出来ない。


「危ない所に行くから、ねっ。
頼むよ。お嬢さん。」

「だったらお嬢さんと言う呼び方を止めて!
其れとんー、そうね。私、空を飛びたいわ。」


無理難題を付けて、無理矢理付いて来るつもりなのだろう。
面倒だな...だってボクには其れが出来るから。

溜息をついて、キャタナインの頭を撫でる。
了承したと受け取られたのか、キャタナインの表情は明るい。


「解った...。」

「じゃ、連れて行ってくれるのね!!」

「いいや違うよ。」


キャタナインが首をかしげる。


「空を飛びたいんだろ。叶えてあげる。」

「嘘...」

「ボクは嘘は言わないよ。
だってバレたら後々面倒でしょ。
さぁ行こう。
人目につかない場所に行かなくちゃ。」


キャタナインの手を引き、ハルバド広場を去る。
大通りから裏路地へ回り、更に入り組んでいる道を通る。
進んでいく度人がどんどん少なくなって行く。
暫く歩いたところで、足を止めた。
周りには誰も居ない。


「お嬢さん、」

「名前!」


上目遣い且つ、強気で言われても...。
やれやれと思いながら、キャタナインの名前を言う。


「ぁ...キャタナイン。約束がある。」

「何?もう驚きはいらないわよ。」

「驚きじゃないよ。
まぁまず、しっかりとボクを掴む事。
あまり喋らない事。叫び声を上げない事。
...最後に、口外しない事。
守れる?」

「え...!?し、しっかり掴むって!?」


目に見えて動揺している。
年頃だし恥ずかしいのかな...。
でも、やましい事は言ってないから大丈夫だよね。


「はいはーい。ボクは急ぎたいからね。
早く近付いて。」

「へ、変な所触らないでよね!」

「触らないよ...。
お嬢さんを傷物にする訳にはいかないからね。」


下手打って死にたくないしね。
抱き寄せたキャタナインの身体は、着太りしていたけど、本来の身体の線は割と細い。
でも、あるべき肉はしっかりと発達しているのが解る。
結構良い体つきしてるな、と下心が生まれそうになった。


「エロい事考えているの?」

「少し...」

「なッ...!?」

「まぁ、男なんて皆そんなもんだよ。
一々警戒してたら彼氏出来ないよ。」

「出来るわよ!!」

「じゃ、そろそろ黙ってね。
舌噛んで千切れても知らないから。」


キャタナインを縦抱きし、左腕で背中から抱き、右腕で太腿辺りを支えた。
上を見上げ思いっ切り跳躍する。僕の体はスーパーボールみたいに、勢い良く上に飛び上がった。
一気に建物を見下ろすアングルになる。
キャタナインは驚きと恐怖からかボクにしがみついている。

次第に重力に従って降下を始める。
内蔵が浮く浮遊感に囚われつつ、屋上に足を着け再び跳躍した。
次は真っ直ぐに飛ぶのではなく、前方に向かって、傾らかな放物線を描く。
ボクの肩に顔を埋めるキャタナインを呼ぶ。


「キャタナイン、折角飛んでるんだ。
見ておかないと損だよ。」

「わ、解ってるわよ。」


キャタナインは恐る恐る顔を上げた。
感嘆の声がぽつり聞こえた。


「凄い...。飛行機やヘリと違うのね...。」

「ボクが見てる景色さ。」

「ラーベストさんって人間...?」

「ご想像にお任せします。」


ボクはそう言って微笑んだ。
キャタナインはまた目を丸くしてボクを見ていた。