第2巻 Sicario〜哀しみに囚われた殺人鬼達〜



マフィアのボスの娘を連れるなんて、万が一怪我でもさせたらボクが危うい。
最悪の場合兄さんの信頼を失う事になる可能性がある。

キャタナインは立ち上がるボクの腕を掴んで、連れて行くよう言ってくる。


「本当に無理だって!お嬢さんが怪我したら大変だから!!」

「ラーベストさんが守ってくれれば良いじゃない!」

「そう言う問題じゃなくて...」


絶対セルリアの所に連れて行ったら怪我をする。
何せセルリアは『Sicario』の中で、切り込み隊長みたいな存在だ。
そんなセルリアが精神を不安定にしている状態なのだ。
ボスの娘とは言え、無事で居られる可能性は保証出来ない。


「危ない所に行くから、ねっ。
頼むよ。お嬢さん。」

「だったらお嬢さんと言う呼び方を止めて!
其れとんー、そうね。私、空を飛びたいわ。」


無理難題を付けて、無理矢理付いて来るつもりなのだろう。
面倒だな...だってボクには其れが出来るから。

溜息をついて、キャタナインの頭を撫でる。
了承したと受け取られたのか、キャタナインの表情は明るい。


「解った...。」

「じゃ、連れて行ってくれるのね!!」

「いいや違うよ。」


キャタナインが首をかしげる。


「空を飛びたいんだろ。叶えてあげる。」

「嘘...」

「ボクは嘘は言わないよ。
だってバレたら後々面倒でしょ。
さぁ行こう。
人目につかない場所に行かなくちゃ。」


キャタナインの手を引き、ハルバド広場を去る。
大通りから裏路地へ回り、更に入り組んでいる道を通る。
進んでいく度人がどんどん少なくなって行く。
暫く歩いたところで、足を止めた。
周りには誰も居ない。


「お嬢さん、」

「名前!」


上目遣い且つ、強気で言われても...。
やれやれと思いながら、キャタナインの名前を言う。


「ぁ...キャタナイン。約束がある。」

「何?もう驚きはいらないわよ。」

「驚きじゃないよ。
まぁまず、しっかりとボクを掴む事。
あまり喋らない事。叫び声を上げない事。
...最後に、口外しない事。
守れる?」

「え...!?し、しっかり掴むって!?」


目に見えて動揺している。
年頃だし恥ずかしいのかな...。
でも、やましい事は言ってないから大丈夫だよね。


「はいはーい。ボクは急ぎたいからね。
早く近付いて。」

「へ、変な所触らないでよね!」

「触らないよ...。
お嬢さんを傷物にする訳にはいかないからね。」


下手打って死にたくないしね。
抱き寄せたキャタナインの身体は、着太りしていたけど、本来の身体の線は割と細い。
でも、あるべき肉はしっかりと発達しているのが解る。
結構良い体つきしてるな、と下心が生まれそうになった。


「エロい事考えているの?」

「少し...」

「なッ...!?」

「まぁ、男なんて皆そんなもんだよ。
一々警戒してたら彼氏出来ないよ。」

「出来るわよ!!」

「じゃ、そろそろ黙ってね。
舌噛んで千切れても知らないから。」


キャタナインを縦抱きし、左腕で背中から抱き、右腕で太腿辺りを支えた。
上を見上げ思いっ切り跳躍する。僕の体はスーパーボールみたいに、勢い良く上に飛び上がった。
一気に建物を見下ろすアングルになる。
キャタナインは驚きと恐怖からかボクにしがみついている。

次第に重力に従って降下を始める。
内蔵が浮く浮遊感に囚われつつ、屋上に足を着け再び跳躍した。
次は真っ直ぐに飛ぶのではなく、前方に向かって、傾らかな放物線を描く。
ボクの肩に顔を埋めるキャタナインを呼ぶ。


「キャタナイン、折角飛んでるんだ。
見ておかないと損だよ。」

「わ、解ってるわよ。」


キャタナインは恐る恐る顔を上げた。
感嘆の声がぽつり聞こえた。


「凄い...。飛行機やヘリと違うのね...。」

「ボクが見てる景色さ。」

「ラーベストさんって人間...?」

「ご想像にお任せします。」


ボクはそう言って微笑んだ。
キャタナインはまた目を丸くしてボクを見ていた。