第2巻 Sicario〜哀しみに囚われた殺人鬼達〜


適当に朝食を終え、ボクは噴水のあるハルバド広場のベンチに腰を下ろしていた。
目先には鳩が数匹、辿々しい足取りで歩いている。
だが朝は仕事に行く人が多い。其の鳩も直ぐに飛び立った。

人から見ればボクは浪人にでも見えるのかな。
いや、そんな若くないし...無職か。
若く見えると人は言うが、正直ボクは2〜3年経てば立派なおっさんの仲間入りだもの。
兄さんの前では其れは尻尾を振るけど、他はそうでもない。
『Sicario』ではギャップを少なくしているけど、他人に対してはそうでない。

ナタリアが言ってた。
「他人に接するお前はギフト其の者だ。」
と、変な事を言うよね。
ボクが兄さんに成れるわけない。
当たり前の事なのに...。


「はぁ〜...。
ボクって子供だな...。」

「如何かしましたか?」


斜め上から声が聞こえた。
気弱そうな優しい声音だ。声の方へ顔を向けた。
20もいかない少女が其処に居た。
茶髪と言うより赤髪と言った方がしっくりくる髪は、肩に付く程の長さで揃えてある。
ぱっちりと綺麗なシャープな瞳は、髪の色と酷似している。
白い耳当てに手袋、マフラー、コート。
防寒対策は万全の様子だ。


「誰?お嬢さん。学校は?」

「今日は休みです。気休めの散歩中です。」

「何で声掛けたの?逆ナン?」

「興味本位です。」


不思議な子だな。
直ぐ拉致されそう。疑いってモノが無さそうだから。


「知らないおじさんに声掛けたら駄目だよ。
拉致されたら大変だ。
お嬢さんは綺麗だから身代金も要求されそう。」

「綺麗だと身代金を要求されるの?」


少女はボクの隣に腰を下ろした。
警戒心ってのが無いのかな。変な子。
変な子と思わずにはいられなかった。


「そこに引っ掛かるの?面白い子だなぁ。」

「其れとおじさんなんて何処に居るの?
お兄さんしか居ないわ。」


首を傾げて、目を丸くしている。
若く見られるのは嬉しいけど、年相応に見られたいと思う気持ちはある。


「お嬢さんは天然かな。おじさんはボクだよ。
これでも28歳。もうすぐ三十路さ。」

「嘘!?見えないわ...。20歳ではないの?」

「そんな若くないよ。だからさ、こんな知らないおじさんに声掛けちゃ駄目だよ。
もう家に帰りなよ。
身形が良いし、資産家の子かな?」

「そんな事も解るのね。ちょっと違うわ。
そして私は帰らない。
其れに“知らないおじさん”ではないわ。
ねぇ、ドール・ラーベストさん?
私はキャタナイン・ファスティマ。
お父様が御世話になってるわ。」


嘘でしょ。
少女の名前に聞き覚えは無かったが、ファミリーネームは親しいものがある。
『ファスティマファミリー』規模の大きいマフィアだ。
其の全体図は計り知れない。少なくともボクは解らない。

唯兄さんのバックを守っている事はよく知っている。
現ボスであるレオナルド・ファスティマは、兄さんに借りがあるらしく仲も悪くは無い。
ボクも偶に兄さんに付いて行って、ファミリーの本部に行った事がある。

まさか其のボスに娘が居たとは...兄さんは如何か解らないが、ボクは初めて知った。
驚きを隠せず暫く何も言えなかった。


「如何したの?ねぇ、ラーベストさん?」

「いや...あの人に娘なんて居たんだなぁって。
うん、レオさんにはあまり似てない。」


キャタナインは瞳に寂しさを乗せた。


「...よく言われる。」

「でも髪と瞳はよく似てる。」

「本当!?」

「親子だからね。少しくらいは似てるものさ。」


そう、親子は似るものさ。
でも兄さんは父さんと母さんと少しも似てない。
外見の話ではなく、中身の話で。
幼いながらなにボクは知ってしまった。
兄さんに“人間味”なんて普通のものは存在しなかった。

キャタナインはボクとの距離を縮めて、尚且つ顔を近付けてきた。
これファミリーの誰かに見られたら、ボクの命が危ういかも...。


「ラーベストさんは、お兄さんとあまり似ていないわ。
まぁ、話した事は無いからよくは知らないけど...。」

「別に良いさ。兄さんは人とは違うから。
兄さんはね、きっと神様に近い存在なんだよ。
って言ってもお嬢さんにはよく解らないか。」

「人は神になれないわ。どんなに望んでも...。」


キャタナインはボクに寄り掛かった。
他人が見ている。これ、本当に大丈夫かな...。


「なる、ならない、の話じゃないよ。
信じるか信じないの違い。ボクは兄さんを神と信じているだけ。
お嬢さんにも何時か見つかるさ。」

「ラーベストさんは皆と違う考え方をするのね。
楽しい!!」

「楽しい?楽しいなんて変な事言うね。
と言うかボクと2人きりって大丈夫なの?」

「大丈夫よ。見つかったら其の時事情を話せば良いもの。」


不安だな...。
そう簡単にボクは死なないから、別に構わないけど。
無闇に力を見せるなって、兄さんからきつく言われてるし。
兄さんと違ってボクの怪力は人目を呼ぶから...。


「そろそろ良いかな?
移動しなきゃいけないから。」

「私も付いて行くわ!!」

「えぇ!?ちょ!冗談でしょ!!!」